権力分立(三権分立)
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権力分立とは、国家権力を立法権・行政権・司法権の3つに区別し、それぞれ異なる機関に担当させ、相互に抑制しあうことでバランスを保つ仕組み。
国家権力を1つの機関に集中させると、その機関が強大な権力を使って国民の権利を侵害するおそれがあるため。
憲法では、以下の通りそれぞれが担当することとされている(41条、65条、76条1項)
立法権(法律を作る権限)⇒国会
行政権(立法権・司法権以外の権限)⇒内閣
司法権(争訟に法を適用し宣言することで解決する権限)⇒裁判所
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国会の地位
憲法は、国会に❶国民の代表機関、❷国権の最高機関、❸唯一の立法機関という3つの地位を付与している。
国民の代表機関
国会は、全国民を代表する選挙された議員で組織される(43条1項)ため、国民の代表機関といえる。
「全国民を代表」とは、国民は代表者である国会議員を通じて行動し、国会議員の行為は、国会議員を選挙で選んだ国民の意思を反映しているものという意味(政治的意味の代表)で、法的に国民と代表者の政治的意思の一致が要求されているわけではない。
この考え方では、議員は自己の信念に基づいてのみ発言・評決し、選挙区などの訓令には拘束されないという「自由委任の原則」が採用されることになる。
国権の最高機関
国会は、国権の最高機関とされている(41条)。
「最高機関」とは、国会が他の機関より優先する権力をもつという意味ではない。
国会議員が主権者の国民に直接選挙されることから、国民と直結しているため政治の中心的地位を占める機関とういことを強調したにすぎないと考えられている(政治的美称説)。
唯一の立法機関
国会は唯一の立法機関とされ、国会が立法権を独占している(41条)。
- 「立法」の意味
「立法」には、法の一形式である「法律」の定立という「形式的意味の立法」と、
「法規」という特定の内容の法規範の定立という「実質的意味の立法」の2つの意味がある。
憲法41条の「立法」は、実質的意味の立法を指す。
「法規」とは、民主主義体制の下では、およそ一般的・抽象的規範であれば、すべて法規に含まれると考えられている。 - 「唯一」の意味
「唯一」の立法機関とは、2つの意味がある、
二院制
二院制とは?
国会は、衆議院と参議院の2院で構成されている(42条)。これを二院制という。
二院制が採用された背景は、
❶衆議院の誤りや軽率な行為を参議院にチェックさせるため。
❷選挙区や人気の違う2つの印を設け、その場所や時の国民の意思を反映させるため。
衆議院と参議院
❶任期
衆議院議員の任期は4年かつ解散がある(45条)。
参議院議員は任期が6年(3年ごとに議員の半数が改選)、解散がない(46条)。
❷兼職の禁止
二院制の趣旨を害しないため、何人も同時に両議院の議員になることはできない(48条)と規定されている。
衆議院の優越
両議院の力関係を対等にすると、意見が対立した場合、何も決めることができなくなる。そのため、憲法は衆議院が参議院に対して優越することとしている(衆議院の優越)。
理由として、衆議院のほうが人気が短く解散もありことから、頻繁に選挙が行われるため、その時々の国民の意思が反映されやすいため。
衆議院の優越事項
- 衆議院のみができる事項
- 衆議院の議決が参議院の議決に優先する事項
国会の活動
会期
国会は常に活動しているわけではなく、一定の機関に限られている(会期という)
国会が1年を通じて活動すると、政党間の争いの激化、立法の過度な増加、議会での討論の長期化、行政能率の低下などの弊害が生じる。
会期中に議決されなかった案件は、後の会期に継続しないのが原則(国会法68条本文)。これを会期不継続の原則という。
会期には、❶常会、❷臨時会、❸特別会の3種類がある。
- 常会
一般に通常国会とも呼ばれ、予算の議決等のため毎年1回召集される国会(52条)。 - 臨時会
臨時の必要に応じて召集される国会。
内閣は、国会の臨時会の招集を決定することができるが、いずれかの議員の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない(53条)。 - 特別会
衆議院の解散後に行われる総選挙後に召集される国会。
衆議院が解散されたとき、解散の日から40日以内に衆議院の総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に国会(特別会)を招集しなければならない(54条1項)。
衆議院の緊急集会
衆議院が解散されたとき、参議院は同時に閉会となる。内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる(54条2項)。
参議院の緊急集会とは、衆議院が解散され、総選挙後の特別会が召集されるまでの間に緊急の事態が生じた場合に、参議院が国会の権能を代行する制度。
緊急集会で決定されるものとして、自衛隊の防衛出動や、災害緊急措置などがある。
会議の原則
- 定足数
定足数とは、議事・議決を行うための必要な最小限度の出席者数のこと。憲法では、議事・議決の定足数を総議員の3分の1以上としている(56条1項) - 表決数
表決数とは、意思決定を行うのに必要な賛成表決の数のこと。憲法では、表決数を憲法に特別の定めのある場合を除いて出席議員の過半数としている。可否同数の場合は、議長が決定権をもつ(56条2項)。
【憲法に特別の定めのある場合】
出席議員の3分の2以上
総議員の3分の2以上必要
- 憲法改正の発議(96条1項前段)
- 会議の公開
両議院の会議は、国民の知る権利を確保するため、公開が原則(57条1項本文)。
ただし、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。(57条1項但書)
なお、出席議員の5分の1以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない(57条3項)。
国会議員の特権
憲法は両議院の議員(国会議員)に3つの特権、❶歳費受領権・❷不逮捕特権・❸免責特権を付与している。
歳費受領権
両議院の議員は法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費をうけとることができる(49条)
不逮捕特権
両議院の議員は、法律の定める場合の除いて、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない(50条)。これを不逮捕特権という。
不逮捕特権が認められた理由として、
❶議員の審議権を確保すること
❷国会議員の身体の自由を保障し、政府により国会議員の職務執行が妨げられないようにするため
の2つにある。
免責特権
両議院の議員は、議員で行った演説・討論・表決について、院外で責任を問われない(51条)。
これを免責特権という。
目的は、国会議員が責任を問われることを恐れて萎縮することを防ぐため。
国会と議院の権能
国会の権能は、衆参両議院の意見が一致しなければ行使することができないのに対し、議員の権能はどちらか一方の議院だけで行使することができる。
国会の権能
- 法律の制定
法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いて、両議院で可決したときに法律となる(59条1項)。 - 条約の承認
条約の締結は国民の権利義務に重大な影響を及ぼすことから、国民の代表機関である国会の承認が必要(61条、73条3号但書) - 弾劾裁判所の設置
国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議院で組織する弾劾裁判所を設けることができる(64条1項)。 - 内閣総理大臣の指名
⇒憲法解説(11):内閣 – 内閣総理大臣の指名 - 憲法改正の発議
議院の権能
議員の権能は以下。❶~❸をまとめて議院の自律権という。
- 議員の資格争訟の裁判権
両議院は各々その議院の資格に関する争訟を裁判する。議員の議席を失わせるには、出席議員の3分の2以上の議決が必要(55条)。 - 役員の選任権
両議院は、各々その議長その他の役員を選任することができる(58条1項)。 - 議員規則制定権・議員懲罰権
両議院は、各々その会議その他の手段および内部の規律に関する規則を定めることができる(58条2項本文)。これを議員規則制定権という。
また、両議院は、院内の秩序を乱した議員を懲罰することができる(58条2項本文)。これを議員懲罰権という。ただし、議員を除名するには出席議員の3分の2以上の議決が必要(58条2項但書)。 - 国政調査権
国政に関して調査を行う議院の権能。
両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭・証言、記録の提出を求めることができる(62条)。国政調査権は、各議院に与えられた権能を実効的に行使するために認められた補助的な権能と考えられている。