行政権と内閣
行政権とは、国家権力の中で「立法権」と「司法権」を除いたものと定義するのが一般的(控除説)。
行政活動には様々なものがあり、積極的に定義することが不可能であるため。
行政権は、内閣に属するとされている(65条)。
内閣の組織
内閣の構成
内閣は、首長たる内閣総理大臣とその他の国務大臣で組織される(66条1項)。
なお、内閣総理大臣と国務大臣は、文民※でなければならない(66条2項)。これは、議会に対して責任を負うものによって軍事権をコントロールし、軍の独走を抑止するため。
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※文民:現役の職業軍人および自衛官ではない者
構成員の選任
- 内閣総理大臣
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名(67条1項前段)、天皇が任命(6条1項)。 - 国務大臣
内閣総理大臣は、内閣の一体性を確保するため、内閣の構成員である国務大臣を任命・罷免することができる(68条1項本文・2項)。
ただし、国務大臣の過半数は、国会議員の中から選ばなければならない(68条1項但書)
総辞職
総辞職とは、内閣総理大臣および国務大臣の全員が同時に辞職すること。
- 総辞職が必要な場合
内閣は、自らの意思でいつでも総辞職できるが、以下の場合には、意思にかかわらず総辞職しなければならない。 - 総辞職に伴う法的効果
行政の空白を作らないようにするため、内閣は、総辞職をした場合でも、新たに内閣総理大臣が任命されるまで職務を継続する(71条)。
議院内閣制
議院内閣制とは、議会(立法権)と政府(行政権)が一応分立しており、政府が議会に対して連帯責任を負う政治体制のこと。
日本国憲法には、議院内閣制の採用を書かれているわけではないものの、以下の規定があることから、議院内閣制を採用しているものと考えられている。
内閣の連帯責任
内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う(66条3項)。
内閣の連帯責任は、損害賠償責任や刑事責任のような法的責任ではなく、国民からの政治的批判を受けるという政治責任を意味する。
内閣総理大臣の指名
内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名する(67条1項)。
国務大臣の任命
国務大臣の過半数は、国会議員の中から選ばなければならない(68条1項但書)
内閣不信任決議権
内閣不信任決議がなされると、内閣は、総辞職するか衆議院を解散するかを選択しなければならない(69条)。
国務大臣の議院出席
議院内閣制の下、行政権の行使について国会に対して連帯責任を負う内閣の構成員である国務大臣には、議員に出席して発言する機会を与える必要があるから、国務大臣の議院出席が認められている(63条)。
内閣と内閣総理大臣の権能
内閣の権能と、内閣総理大臣の権能は区別されている。内閣の権能は、閣議の決定を経なければ行使できないのに対し、内閣総理大臣の権能は、閣議決定を経なくても単独で行使できる。
内閣の権能
一般行政事務の他、以下のような権限を行使できる(73条)。
- 法律の誠実な執行・国務の総理
法律の誠実な執行とは、たとえ内閣の賛成できない法律であっても、法律の目的にかなった執行をしなければならないという意味。国務の総理とは、国の政治全体が調和を保って円滑に進行するよう配慮すること。 - 外交関係の処理
外交交渉をしたり、外交文書を作成すること。 - 条約の締結
機動性を有し、専門的な判断力のある内閣に条約締結権が与えられている。
ただし、事前もしくは時宜によっては事後に国会の承認を得ることが必要(73条3号但書) - 官吏に関する事務の掌理
官吏(かんり)とは、国家公務員のことであり、地方公務員は含まれない。 - 予算の作成・国会への提出
予算の作成には専門性・迅速性が必要なことから、内閣に予算の作成権が与えられている。 - 政令の制定
政令とは、内閣が制定するルール。政令は、憲法および法律の規定を実施するために制定される。
ただし、指令には、特に法律の委任がある場合を除いて、罰則を設けることができない(73条6号但書) - 恩赦の決定
内閣が恩赦を決定し、天皇が認証する(7条6号)。
内閣総理大臣の権能
- 国務大臣の任命・罷免
内閣総理大臣は、国務大臣を任命したり罷免したりすることができる(68条1項本文・2項) - 内閣を代表する権限
内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告し、行政各部を指揮監督する(72条)。
- 法律・政令の連署
執行責任を明確にするため、内閣総理大臣は、法律・指令について、主任の国務大臣とともの署名(連署)する(74条)。 - 国務大臣の訴追
訴追が慎重に行われるようにするとともに、内閣総理大臣の首長たる地位を確保するため、国務大臣を在任中に訴追するには、内閣総理大臣の同意が必要(75条本文)
ただし、このために訴追の権利は害されないとされている(75条但書)。「訴追の権利は、害されない」とは、訴追のための準備として国務大臣の在任中でも証拠の保全等のために必要な措置を行うことができ、公訴時効も停止するという意味。