奴隷的拘束・苦役からの自由
奴隷的拘束
奴隷的拘束とは、自由な人格者であることと両立しない程度の身体の自由の拘束状態のことで、監獄部屋がその例。奴隷的拘束は絶対的に禁止されている(18条前段)。
意に反する苦役
意に反する苦役とは、本人の意思に反して強制される労役のことであり、徴兵制がその例。
意に反する苦役は、奴隷的拘束と異なり、犯罪による処罰の場合は例外的にゆるされている(18条後段)。
法的手続の保障
31条の意義
31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ…刑罰を科せられない。」と規定しており、その文言上は、①手続きの法定のみを要求している。
しかし、それに加えて、②法定された手続きの適正・③実体規定の法定(罪刑法定主義)・④法定された実体規定の適正をも要求していると考えるのが通説的見解。
告知と聴聞
上記②の手続きの中でも特に重要とされるのが、告知と聴聞の手続き。
告知と聴聞の手続とは、公権力が国民に刑罰その他の不利益を科す場合、あらかじめ当事者に対してその内容を告知し、当事者に弁解と防御の機械を与えるというもの。この手続を経ることで、不利益を受ける個人の権利を保護し、公権力による不利益処分が適正になされることになる。
行政手続との関係
31条は、「刑罰を科せられない」と規定していることから、直接的には刑事手続に関する規定。そのため、この規定が行政手続にも適用されるかが問題となる。
条例による刑罰
31条は、「法律」の定めるところによらなければ刑罰を科せられないと規定していることから、条例によって刑罰を科すことができるかが問題となる。
被疑者・被告人の権利
被疑者とは、犯罪の嫌疑を受け捜査の対象とされているものの、まだ訴追されていない者。
被告人とは、犯罪を犯したとして訴追されている者。
被疑者の権利
不法な逮捕からの自由
無実の者を不当に拘束することを阻止するため、逮捕をするためには司法官憲が発する令状が必要(33条)で、これを令状主義という。
なお、現行犯逮捕の場合には、真犯人であることが明確であり不当な拘束のおそれは少ないことから、例外的に令状は不要。
抑留・拘禁からの自由
抑留とは、一時的な身体の拘束のことであり、拘禁とは継続的な身体の拘束のこと。
何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留・拘禁されないと規定されている(34条前段)
また、拘禁の場合は抑留の場合よりも人身の自由に対する制約が大きいので、捜査機関による不当な拘禁を防止するため、公開の法廷において理由を示すこととされている(34条後段)。
住居の不可侵等
人の生活の中心である住居を不当な侵入等から守り、個人のプライバシーを保護するため、住居・書類・所持品について侵入・捜索・押収する場合には裁判官が発する令状が必要とされている(35条1項)。
もっとも、逮捕に伴い侵入等がなされる場合には、逮捕の時点で令状がでているので、侵入等については令状が不要とされている。
被告人の権利
残虐刑の禁止
大日本帝国憲法の時代に拷問や残虐な刑罰が行われていたことの反省から、これらを絶対に禁ずる旨の規定が置かれている(36条)。
公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利
憲法37条1項は、刑事被告人に対し、
①公平な裁判所
②迅速な
③公開裁判
を受ける権利を保障している。
証人審問権・喚問権
被告人には、証人に対して質問する権利(証人審問権)や、証人を法廷に呼んでもらう権利(証人喚問権)が認められている(37条2項)。
弁護人依頼権
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができ、被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附することとされている(37条3項)。
なお、「国でこれを附する」とあるのは、いわゆる国選弁護人のこと。
黙秘権の保障
被告人には、自己に不利益な供述を強要されない権利、黙秘権が保障されている(38条1項)。
なお、令状主義や黙秘権の保障が行政手続にも適用されるかが問題となった事件として、川﨑民商事件がある。
自白
38条2項は、強制・拷問・脅迫による自白または不当に長く抑留・拘禁された後の自白は、証拠とすることができない旨を規定いる(自白法則)。
また、38条3項は、任意になされた自白であっても、これを補強する別の証拠が無ければ、有罪とされない旨を規定している。これを補強法則という。
訴求処罰と二重処罰の禁止
39条前段は、何人も、実行の時に適法であった行為または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われないとして、訴求処罰(事後法)の禁止と一事不再理を規定している。
また、39条後段は、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われないとして、二重処罰の禁止を規定している。