基礎法学5:裁判制度

目次

裁判とは?

裁判とは、司法起案としての裁判所・裁判官が現実の紛争を解決する目的で行う公権的な法的判断の表示。

大きく分けて、私人間の権利義務に関する紛争を解決する民事裁判と、犯罪を行った者の処罰を求める刑事裁判がある。

民事裁判では訴える人は原告、訴えられる人を被告となる。
刑事裁判では訴える人は検察官、訴えられる人は被告人となる。

裁判の基本原則

当事者主義

当事者主義とは、主張・立証の主導権を裁判の当事者にゆだね、裁判官は審判の立場からその過程を整理して、最終的に優劣を判断するにとどめる原則のこと。日本では、民事裁判・刑事裁判両方において当事者主義が採用されている。

自由心象主義

自由心象主義とは、裁判所が証拠に基づき事実認定をするにあたり、裁判官の自由な判断に委ねる原則。日本では、民事裁判でも刑事裁判でも、自由心象主義が採用されている(民事訴訟法247条、刑事訴訟法318条)

ある事件について、民事裁判と刑事裁判が行われる場合、それぞれの裁判で異なる事実認定がなされることもある。

証明責任(挙証責任)

裁判所は、法令の適用の前提となる事実の存否が確定できない場合でも、裁判を拒否することはできない。

このような場合には、その事実の存否いずれかとみなして当事者のどちらかに不利な判決をせざるを得ないことになる。この当事者の負う不利益のことを証明責任(挙証責任)という。

民事裁判において、一定の法律効果を主張する当事者が、その効果の発生に必要な事実(要件事実)につき証明責任を負う。1

対して、刑事事件では、原則として検察官が挙証責任を負う。刑事裁判において、被告人の人権保障の観点から「疑わしきは被告人の利益に」の原則が採用されているため。

裁判所・裁判官

裁判所

裁判所は、最高裁判所下級裁判所に大別される。2

①最高裁判所

最高裁判所は大法廷3または小法廷4のいずれで審理を行うかを自由に決定できるのが原則(裁判所法10条本文)。ただし、以下の場合には、大法廷で裁判を行わなければならない(裁判所法10条但書)。

  • 当事者の主張に基づいて、法律・命令・規則・処分が憲法に適合するか否かを判断するとき(意見が前に大法手でした合憲判決と同じであるときを除く)(憲法判断
  • 法律・命令・規則・処分が憲法に適合しないと認める時(違憲判断
  • 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき(判例変更
②下級裁判所

下級裁判所には、高等裁判所地方裁判所簡易裁判所家庭裁判所の4種類ある(裁判所法2条1項)。
それぞれの権限と担当裁判官の数は以下の通り。

高等裁判所

■権限裁判所法16条

  1. 地方裁判所の第一審判決、家庭裁判所の判決および簡易裁判所の刑事に関する判決に対する控訴
  2. 地方裁判所・家庭裁判所の決定・命令、簡易裁判所の刑事に関する決定・命令に対する抗告
  3. 地方裁判所の第二審判決および簡易裁判所の判決に対する上告(刑事にかんするものを除く)

■担当裁判官の数
 3人の裁判官による合議制裁判所法18条

地方裁判所

■権限裁判所法24条

  1. 簡易裁判所・家庭裁判所以外の訴訟の第一審
  2. 罰金以下の刑に当たる罪以外の罪に係る訴訟の第一審
  3. 簡易裁判所の判決に対する控訴(刑事に関する者を除く)
  4. 簡易裁判所の決定・命令に対する抗告(刑事に関するものを除く)

■担当裁判官の数
 3人の裁判官による合議制で行われる場合を除き、1人の裁判官裁判所法26条

簡易裁判所

■権限裁判所法33条1項

  1. 訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求
  2. 罰金以下の刑に当たる罪、選択刑として罰金が定められている罪に係る訴訟の第一審裁判

■担当裁判官の数
 1人の裁判官裁判所法35条

家庭裁判所

■権限裁判所法31条の3第1項

  1. 家庭に関する事件の審判・調停
  2. 人事訴訟5
  3. 少年の保護事件6の審判

■担当裁判官の数
 3人の裁判官による合議制で行われる場合を除き、1人の裁判官裁判所法31条の4

裁判官

①種類

最高裁判所の長たる裁判官を最高裁判所長官といい、その他の裁判官を最高裁判所判事という(裁判所法5条1項)。また、下級裁判所の裁判官のうち、高等裁判所の長たる裁判官を高等裁判所長官といい、その他の裁判官は判事判事補簡易裁判所判事という(裁判所法5条2項)。

②任命

最高裁判所長官は、内閣に指名に基づいて、天皇が任命し(裁判所法39条1項)、最高裁判所判事は内閣が任命する(裁判所法40条1項)。

③定年

最高裁判所・簡易裁判所の裁判官の定年は70歳
高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所の裁判官の定年は65歳
これに達した時に退官する(裁判所法50条)。

三審制

参三審制とは?

日本の裁判制度において、3回まで裁判所の審理を受けることができる三審制が採用されている。

この三審制では、第一審判決がなされた場合、上級の裁判所に対してその判決の取消し・変更を求める控訴をすることができる。また、控訴審判決がなされた場合、さらに上級の裁判所に対して判決の取消し・変更を求める上告をすることができる。789

【民事裁判】

graph BT
  簡易裁判所--控訴-->地方裁判所
 地方裁判所--上告-->高等裁判所
 高等裁判所

訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求

graph BT
 地方裁判所--控訴-->高等裁判所
 高等裁判所--上告-->最高裁判所
 style 最高裁判所 fill:#f9f

原則

【刑事裁判】

graph BT
  簡易裁判所--控訴-->高等裁判所
 高等裁判所--上告-->最高裁判所
  style 最高裁判所 fill:#f9f

一定の軽微な犯罪

graph BT
 地方裁判所--控訴-->高等裁判所
 高等裁判所--上告-->最高裁判所
  style 最高裁判所 fill:#f9f

原則

審理の内容

回数を重ねるだけでは裁判を長引かせるだけなので、民事裁判では、事実の認定に関する事実問題は第二審控訴審)までで、第三審上告審)では法律の解釈適用に関する法律問題についてしか審理できないのが原則。

刑事事件では、事実問題は第一審だけで審理しなければならず、その上の審級では法律問題についてしか審理できないのが原則。

ただし、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある場合などは、上告審においても事実問題を審理することができる(刑事訴訟法411条3号)。

上級審の審理の方式

上級審の審理の方式には3種類ある。

  1. 続審
    第一審の裁判の審理を基礎としながら、上級審においても新たな訴訟資料の提出を認めて審理を続行するもの

  2. 事後審
    第一審の裁判の記録に基づいて、その判断の当否を事後的に審査するもの

  3. 覆審
    第一審の裁判の審理とは無関係に、新たに審理をやり直すもの

民事訴訟における控訴審の裁判は続審、刑事訴訟における控訴審の裁判は事後審とされている。

司法制度改革

裁判員制度

裁判員制度とは、一定の重大犯罪に関する刑事裁判の第一審において、一般市民が裁判官と合議体を構成し、審理・評決を行う制度。裁判員制度は司法制度改革の一環として、平成21年から実施されている。

裁判員制度の対象となる裁判では、裁判員6人、裁判官3人(例外的に裁判員4人、裁判官1人の場合もある)で構成される合議体が、事実の認定法令の適用刑の量刑を行う。

この合議体の判断は、裁判官・裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によることとされている。

裁判員制度の流れ

sequenceDiagram
    participant 裁判所
    actor 国民

    裁判所->>裁判所: 裁判員候補者名簿を調製
    裁判所->>裁判所: 裁判員候補者をくじで選定
    裁判所->>国民: 呼出状の送達
    国民->>裁判所: 出頭
    裁判所->>裁判所: 裁判員の選任
    裁判所->>裁判所: 裁判を行う

日本司法支援センター(法テラス)

日本司法支援センター(法テラス)は、司法制度改革の一環として、総合法律支援法に基づき、平成18年4月に設立された。日本司法支援センターには、。国民の司法へのアクセス拡充のため、以下のような業務を行っている。

情報提供業務

利用者からの問い合わせに応じて、裁判等の法的紛争を解決するための法制度に関する情報、弁護士や隣接法律専門職の業務および弁護士会や隣接法律専門職者の団体の活動に関する情報を無料で提供する業務

民事法律扶助業務

利用者からの個別の依頼に応じて、法的紛争の解決方法について指導・助言を無料で行い、利用者の資力が十分でない場合には、弁護士や隣接法律専門職の中から適当な者を紹介して、その報酬・費用を立て替える業務

国選弁護等関連業務

刑事事件の被告人・被疑者に国選弁護人を付すべき場合において、裁判所からの求めに応じて国選弁護人の候補を指名して通知を行い、選任された国選弁護人にその事務を取り扱わせて、その報酬・費用を支払う業務

司法過疎対策業務

いわゆる司法過疎地域において、利用者からの個別の依頼に応じ、相当の対価を得て、弁護士や隣接法律専門職に法律事務を取り扱わせる業務

犯罪被害者支援業務

犯罪の被害者やその親族等に対して、刑事手続への適切な関与やその損害・苦痛の回復・軽減を図るための制度その他被害者やその親族等の援助を行う団体等の活動に関する情報を無料で提供する業務

刑事裁判に関する改革

①強制起訴

平成16年の検察審査会法改正により、検察官が公訴を提起しない場合において、検察審査会が2度にわたって起訴を相当とする議決をしたときには、裁判所が指定した弁護士が公訴を提起する強制起訴の制度が導入された。

②公判前整理手続

平成17年の刑事訴訟法改正により、刑事裁判においては、審理が開始される前に事件の争点および証拠等の整理を集中して行う公判前整理手続の制度が導入された。

消費者団体訴訟制度

①差止め請求

平成18年の消費者契約法改正により、事業者による不当な勧誘行為・表示行為等について、内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体が当該行為の差止めを請求することができる消費者団体訴訟制度が導入された。

②損害賠償請求

平成25年に成立した「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」により、一定の集団(クラス)に属する者(例えば、特定の商品によって被害を受けた者)が同一の集団に属する者の全員を代表して原告となり、当該集団に属する者の全員が受けた損害について、一括して損害賠償を請求することができるようになった。

  1. 具体例:売買代金の支払いを請求する者は、売買契約の成立という要件事実を証明する責任を負う ↩︎
  2. 参考:最高裁判所の裁判では少数意見を付すことができる(裁判所法11条)が、下級裁判所の裁判では少数意見を付すことができない ↩︎
  3. 大法廷:全員の裁判官の合議体 ↩︎
  4. 小法廷:最高裁判所の定める員数(3人以上)の裁判官の合議体 ↩︎
  5. 人事訴訟:離婚訴訟などの家族関係に関する訴訟のこと ↩︎
  6. 保護事件:飛行に及んだ少年の更生のための処分を決定する事件のこと ↩︎
  7. 参考:特許庁がなした審決に対する訴えのように、高等裁判所が第一審裁判所になることもある(特許法178条1項↩︎
  8. 参考:刑事訴訟だけでなく民事訴訟においても、再審(確定判決に重大な瑕疵がある場合に、確定判決の取消しと事件の再審理を求めること)の制度が認められている(刑事訴訟法435条民事訴訟法338条↩︎
  9. 参考:上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について、下級審の裁判所を拘束する ↩︎
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