形式的当事者訴訟とは?
形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分・裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもののことです(4条前段)。
一見すると「処分・裁決の効力を争う」点では抗告訴訟ように見えますが、立法政策上としては、「当事者間で直接争うべき」とされているため、形式的に当事者訴訟の形をとるのが特徴です。1
■行政事件訴訟の類型
--- config: theme: neutral --- flowchart LR subgraph 取消訴訟以外の抗告訴訟 無効等確認訴訟 不作為の違法確認訴訟 義務付け訴訟 義務付け訴訟 差止め訴訟 仮の義務付け/仮の差止め end subgraph 取消訴訟 処分取消訴訟 裁決取消訴訟 end 行政事件訴訟 --> 主観訴訟["主観訴訟<br>国民の個人的な<br>権利の保護"] 主観訴訟 --> 抗告訴訟 抗告訴訟 --> 法定抗告訴訟 法定抗告訴訟 --> 処分取消訴訟 法定抗告訴訟 --> 裁決取消訴訟 法定抗告訴訟 --> 無効等確認訴訟 法定抗告訴訟 --> 不作為の違法確認訴訟 法定抗告訴訟 --> 義務付け訴訟 法定抗告訴訟 --> 差止め訴訟 抗告訴訟 --> 無名抗告訴訟 主観訴訟 --> 当事者訴訟 当事者訴訟 --> 形式的当事者訴訟 当事者訴訟 --> 実質的当事者訴訟 行政事件訴訟 --> 客観訴訟["客観訴訟<br>客観的な法秩序<br>の適正"] 客観訴訟 --> 民衆訴訟 客観訴訟 --> 機関訴訟 click 処分取消訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh16-1/" style 処分取消訴訟 color:#1176d4 click 裁決取消訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh16-1/" style 裁決取消訴訟 color:#1176d4 click 裁決取消訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh17-1/" style 無効等確認訴訟 color:#1176d4 click 裁決取消訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh17-2/" style 不作為の違法確認訴訟 color:#1176d4 click 裁決取消訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh17-3/" style 義務付け訴訟 color:#1176d4 click 裁決取消訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh17-4/" style 差止め訴訟 color:#1176d4 click 仮の義務付け/仮の差止め "https://gs.kabudata-dll.com/gh17-5/" style 仮の義務付け/仮の差止め color:#1176d4 click 当事者訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh18-1/" style 当事者訴訟 color:#1176d4 click 形式的当事者訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh18-2/" style 形式的当事者訴訟 color:#1176d4,fill:#ffb6c1 click 実質的当事者訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh18-3/" style 実質的当事者訴訟 color:#1176d4 click 民衆訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh19-1/" style 民衆訴訟 color:#1176d4 click 機関訴訟 "https://gs.kabudata-dll.com/gh19-1/" style 機関訴訟 color:#1176d4
形式的当事者訴訟の例
Xは、自分の土地がB市の申請により、公共の市道用地として収用されることになりました。A県収用委員会は、Xに対して損失補償として保証金1,000万円を支払うという収用裁決を行いました。
しかし、Xさんは「1,000万円では安すぎる」と考え、補償金の増額を求めたいと思いました。
--- config: theme: neutral --- flowchart LR A県土地収用委員会 B市["B市<br>起業者"] X["X<br>土地所有者"] A県土地収用委員会 -->|収用裁決<br>【取消訴訟】| X B市 -->|申請| A県土地収用委員会 X <-->|補償金額<br>【当事者訴訟】| B市
このとき、どのような訴訟を提起するか?
通常であれば、行政庁の裁決に不満があるので「取消訴訟」を考えたくなるところです。
しかし、土地収用法133条3項では以下のように定められています:
前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。
つまり、補償金額に関する争いは、これを提起した者が起業者2であるときは土地所有者または関係人を、土地所有者または関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならないため(土地収用法133条3項)、Xは、1,000万円という補償金額に不服がある場合には、補償の支払者(=起業者=B市)を相手に訴訟を提起する必要があるのです。
このような訴訟は、実質的には収用裁決の適否を争っている点で「抗告訴訟」に近いですが、法律の形式上(土地収用法)はB市との当事者間(土地所有者・起業者間)の争いとして処理されるため、これが「形式的当事者訴訟」にあたるのです。
まとめ
形式的当事者訴訟は、見た目は当事者訴訟、実質は抗告訴訟というちょっと特殊な訴訟類型です。
土地収用法など特別法で定められた場面にしか現れないため、頻出分野とは言えませんが、出題されると差がつくポイントになります。
行政事件訴訟法の理解を深めるうえで、形式と実質の違いをしっかり押さえておきましょう!