事案
教育委員会の委員長は、各校長宛に、学校行事において教職員に国家の起立斉唱等を義務付ける通達を発し、学校行事の都度、各校長は、当該通達を受けた職務命令1を発し、教育長は、職務命令違反の教職員らを懲戒処分とした。
そこで、教職員らは、国家の起立斉唱等をする義務の不存在確認訴訟およびこれらの義務違反を理由とする懲戒処分の差止め訴訟を提起した。
結論

懲戒処分差止訴訟は適法、無名抗告訴訟としての義務不存在確認訴訟は不適法、公法上の当事者訴訟としての義務不存在確認訴訟は適法
判旨
- ①懲戒処分差止訴訟の適法性
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本件通達をもって、本件職務命令と不可分一体のものとしてこれと同視することはできず、本件職務命令を受ける教職員に条件付きで懲戒処分を受けるという法的効果を生じさせるものとみることもできないから、処分性は認められない。
また、本件職務命令も、職務の遂行の在り方に関する校長の上司としての職務上の指示を内容とするものであって、教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼすものではないから、処分性は認められない。
本件通達および本件職務命令は行政処分に当たらないから、取消訴訟および執行停止の対象とはならないものであり、懲戒処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されないから、本件では懲戒処分の取消訴訟等および執行停止との関係でも補充性の要件を欠くものではない。
- ②無名抗告訴訟としての義務不存在確認訴訟の適法性
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無形抗告訴訟は行政処分に関する不服を内容とする訴訟であって、本件通達および本件職務命令のいずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない以上、無名抗告訴訟としての本件確認の訴えは、将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべきものと解するのが相当であり、本件においては、法定抗告訴訟である差止め訴訟との関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を欠き、不適法というべきである。
- ③公法上の当事者訴訟としての義務不存在確認訴訟の適法性
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本件通達を踏まえた本件職務命令に基づく公的義務の存在は、その違反が懲戒処分の処分事由との評価をうけることに伴い、勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益が発生する危険の観点からも、教職員の法的地位に現実の危険を及ぼし得るものといえるので、このような行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする訴訟として構成する場合には、公法上の当事者訴訟の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴えと解される。
本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件確認の訴えは、行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては、その目的に即した有効適切な争訟方法であるということができ、確認の利益を肯定することができる。
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- 職務命令:上司の公務員が部下の公務員に対し、その職務に関して発する命令のこと。公務員は適法な職務命令については、忠実に従わなければならない(国家公務員法98条1項、地方公務員法32条)。 ↩︎