事案
アメリカ人弁護士のレペタは、裁判を傍聴した際に、傍聴席でのメモ採取を希望し許可申請を行ったが認められなかったため、この措置は憲法21条および憲法82条1項に違反するのではないかが争われた。
結論

合憲。
判旨
- ①情報を摂取する自由
-
憲法21条1項は表現の自由を保障しており、各人が自由に様々な意見・知識・情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、個人の人格発展にも民主主義社会にとっても必要不可欠であるから、情報を摂取する自由は、憲法21条1項の趣旨・目的から、いわばその派生原理として当然に導かれる。
- ②一般人の筆記行為の自由
-
様々な意見・知識・情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである。
- ③法廷でメモを取る自由
-
傍聴人が法定においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識・記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならない・
- ④筆記行為の自由の合憲性判定基準
-
筆記行為の自由は、21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その自由の制限または禁止には、表現の自由に制限を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではない。
- ⑤法定でメモを取る行為の合憲性判定基準
-
傍聴人のメモをとる行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであって、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法21条1項の規定の精神に合致する。
- ⑥司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対するメモの許可
-
報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできない。
- ⑦裁判の公開(82条1項)との関係
-
憲法82条1項は、裁判の対審および判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。
同条項は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として認めたものではないし、また、傍聴人に対してメモを取ることを権利として保障しているものでもない。
👉憲法5:「精神的自由権」とは?思想・信教・表現・学問の自由をやさしく解説(報道・取材の自由)