- 憲法29条の内容をしっかり理解したい行政書士試験の受験生
- 「特別の犠牲」ってなに?とモヤモヤしている方
- 判例ベースで損失補償のポイントを押さえたい人
- 憲法の条文と実務がどう結びつくのか知りたい方
💡損失補償とは?わかりやすく解説
損失補償とは、国や地方公共団体が適法に行った活動によって、一部の国民が特別に損害(=特別の犠牲)を受けたときに、これを補償する制度です。
🔍「特別の犠牲」ってどう判断するの?
損失補償が認められるかどうかのポイントは、「特別の犠牲」にあたるかどうかです。これは次のような事情を総合的に見て判断されます。
- 規制や侵害の内容・目的
- 損害の程度や態様
- 他の人と比べて、一部の人だけが著しく不利益を受けたか など
⚖️損失補償が認められなかった有名判例
以下のようなケースでは、最高裁判所は「特別の犠牲」とは認めず、損失補償を否定しています。
- 在外資産の賠償への充当による損害(戦争損害)(最大判昭43.11.27)
- 行政財産である土地の使用許可が、当該行政財産本来の用途または目的上の必要に基づき将来に向かって取り消されたことによる損失(最判昭49.2.5)
- 国道の改築工事として地下横断歩道が設置された結果、消防法違反の状態となったガソリンタンクを移設しなければならなくなったことによる損失(最判昭58.2.18)
- 都市計画道路の区域内の土地所有者が長期にわたり建築制限を受けたことによる損失(最判平17.11.1)
🧭補償の根拠はどこにある?
損失補償については、一般的なルールを定めた「損失補償法」のような法律はありません。
代わりに、各種の法律(例:土地収用法など)に個別に規定があります。12
しかし、もし個別法に補償の規定がない場合でも、憲法29条3項を根拠として損失補償を求めることができるとされています。
✅ 憲法29条3項とは?
「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」
憲法29条3項
📚判例ピックアップ
河川附近制限令事件(最大判 昭和43年11月27日)では、補償規定がなかったにもかかわらず、憲法29条3項を根拠に損失補償を認める可能性があるとされました。
💰補償の「内容」と「程度」はどう決まる?
ここでは2つの学説があります。
学説 | 内容 |
---|---|
完全補償説 | 財産価値が減らないように全額補償すべきという考え |
相当補償説 | 一定程度の補償で足りるという考え |
✅ 最高裁の考え方は?
👉土地収用法では、「前後で財産価値が等しくなるような補償が必要」(最判昭48.10.18)
⇒完全補償説に近い
👉農地改革事件では、「必ずしも市場価格と一致する必要はない」(農地改革事件:最大判昭28.12.23)
⇒相当補償説に近い3
🔍最重要判例:農地改革事件(最大判昭28.12.23)
🔍最重要判例:建築制限付土地の収用と補償(最判昭48.10.18)
補償の方法
💸補償はいつ支払われるべき?
憲法では「正当な補償」は定められていますが、「いつ払うか」までは書かれていません。
🔍判例の立場
補償が財産の供与と交換的に同時に履行されるべきことについては、憲法の補償するところではないとしている(最大判昭24.7.13)。つまり、必ずしも収用と同時に補償金を支払う必要はないということになります。
🔁収用した財産は、目的がなくなったら返してもらえる?
これも気になるポイントですが、収用後に目的が消滅しても、被収用者に自動的に返還されるとは限りません。
✅判例の考え方
最高裁判所の判例は、私有財産の収用が行われた後に、収用目的が消滅した場合、「法律上当然にこれを被収用者に返還しなければならないものではない」とされています(最大判昭46.1.20)。
📝まとめ
- 損失補償は「特別の犠牲」を受けたときに認められる
- 個別法や憲法29条3項を根拠に補償を求めることができる
- 補償の内容・時期・返還義務については判例もチェック!
- 重要判例:火災の際の消防活動により損害を受けた者が、その損失の補償を請求しうるためには、当該処分等が、火災が発生しようとし、もくしは発生し、または延焼のおそれがある消防対象物およびこれらの物のある土地以外の消防対象物および立地に対しなされたものであり、かつ、当該処分等が消化・延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときになされたものであることを要する(最判昭47.5.30) ↩︎
- 参考:都市計画法には、用途地域の指定について、土地の利用規制を受けることとなった者が、通常生ずべき損害の補償を求めることができる旨の規定はない。 ↩︎
- 重要判例:土地収用法にいう「通常受ける損失」とは、収用に基づき被収容者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失をいうと解するのが相当であって、経済的でない特殊な価額についてまで補償の対象とする趣旨ではない(最判昭63.1.21)。 ↩︎