役員が負う「会社に対する責任」とは?
会社の取締役や監査役などの「役員等※1」は、その任務を怠ったとき、会社に損害を与えたとして損害賠償責任を負います(423条1項)。
ただし、役員が「注意を怠らなかった」ことを証明できれば、責任を免れることもできます。
しかし、すべてが過失責任とは限らず、次のようなケースでは無過失責任(注意を尽くしていても責任を負う)となることもあります。
■ ケース別|役員の責任の種類まとめ
内容 | 責任の種類 |
---|---|
競業取引 | 過失責任1 |
(直接取引) | 利益相反取引原則:過失責任 例外:自己のために取引した場合、無過失責任(428条1項) |
利益相反取引 (関節取引) | 過失責任 (120条4項但書) |
(120条4項本文) | 利益供与原則:過失責任(120条4項但書) 例外:自ら利益供与をした取締役・執行役の場合、無過失責任(120条4項但書かっこ書) |
(462条1項) | 不当な剰余金の配当過失責任(462条2項) |
役員の責任は免除や制限できる?
役員の任務懈怠責任は、一定の条件下で免除や制限が可能です。以下の4パターンを押さえましょう。
- 総株主の同意による免除
役員等の会社に対する損害賠償責任は、総株主の同意により免除することができる(424条) - 株主総会の特別決議による一部免除
役員等が職務を行うにつき善意・無重過失である場合、株主総会の特別決議により責任の一部を免除することができる(425条1項、309条2項8号)2 - 定款による免除規定の設定
役員等が職務を行うにつき善意・無重過失の場合において、特に必要と認めるときは、取締役の過半数の同意(取締役会設置会社では取締役会決議)によって、取締役の責任を免除することができる旨を定款で定めておくことができる(426条1項) - 責任限定契約
会社は、非業務執行取締役・監査役・会計参与・会計監査人がその職務を行うにつき善意・無重過失であれば、定款で定めた額の範囲であらかじめ会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれかの高い額を限度とする契約(責任限定契約)を締結できる旨を定款で定めておくことができる(427条1項)
第三者に対する責任|悪意・重過失がある場合
通常、会社の役員は「会社との間」にだけ法律上の責任を負います。そのため、会社の外にいる第三者に対しては、たとえ損害を与えたとしても、基本的には不法行為責任(民法709条)による責任しか問われません。3
しかし実際には、役員の行動が第三者に大きな影響を与えるケースも多くあります。そこで会社法では、特別に次のようなルールが設けられています。
それは、役員が職務を行う中で「悪意または重大な過失」があった場合には、第三者に対しても損害賠償責任を負うというものです(429条1項)。
しかし、役員等の行為は第三者に重大な影響を与えることが多いことから、特別な法律上の責任が課せられています。
責任が認められる条件(要件)は?
役員が第三者に対して損害賠償責任を負うためには、「悪意・重過失」があったことが必要です。
ただし、これは「損害そのもの」についてではなく、役員としての任務を果たさなかったこと(任務懈怠)に対して悪意・重過失があれば足ります(最大判昭44.11.26)。
また、次のどちらのケースでも、役員の責任が問われます。
- 役員の行為によって、第三者が直接損害を受けた場合(直接損害)
- 会社が損害を受け、その影響で第三者も損害を受けた場合(間接損害)
いずれの場合も、役員の任務懈怠と第三者の損害との間に相当因果関係があると認められれば、役員は第三者に対して損害賠償責任を負うことになります(最大判昭44.11.26)。
裁判例で見る「責任を負う取締役」の具体例
429条1項に基づく損害賠償責任を負うかどうかが問題となった取締役としては、次のような裁判上の判断があります。
- 名目取締役
非常勤のいわゆる社外重役として名目的に取締役に就任しているにすぎない者でも、429条1項に基づく損害賠償責任を免れられないことがあります(最判昭55.3.18) - 表見取締役
適法に選任されていないにもかかわらず取締役として登記されている者は、取締役でないことを善意の第三者に対抗できず(908条2項)、429条1項に基づく損害賠償責任を負います(最判昭47.6.15)。 - 退任取締役
取締役を退任したのに退任登記をしていなかった者は、退任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合に限り、429条1項に基づく損害賠償責任を負います(最判昭62.4.16)。
まとめ|役員の責任は思った以上に重い!
会社役員は、会社に対してだけでなく、条件次第では第三者に対しても損害賠償責任を負うことになります。
特に行政書士試験では、条文の責任の違い(過失責任/無過失責任)や免除の要件、裁判例がよく出題されるポイントです。
表や事例でイメージを固めて、確実に押さえておきましょう!