民法28:相続の承認・放棄とは?単純承認・限定承認・相続放棄と熟慮期間をわかりやすく解説

🧭この記事はこんな人におすすめ
  • 行政書士試験の民法対策として「相続の承認・放棄」について学びたい方
  • 「熟慮期間」や「限定承認」「相続放棄」などの用語の違いに混乱している方
  • 試験によく出る条文の趣旨や適用例を理解したい方
目次

相続の承認・放棄とは?【民法 第915条~第939条】

相続が発生すると、相続人には「相続するかどうか」の選択が求められます。
その選択肢には以下の3つがあります。

  • 単純承認(無条件にすべての権利・義務を引き継ぐ)
  • 限定承認(プラスの財産の範囲で負債を負担)
  • 相続放棄(はじめから相続人でなかったことになる)

この判断を下すために設けられている期間が 「熟慮期間」 です。

熟慮期間とは?

相続人は、「自分が相続人であることを知ったとき」から3か月以内に、相続について、以下のいずれかを決定しなくてはなりません(915条1項本文)。

  • 単純承認(無条件にすべての権利・義務を引き継ぐ)
  • 限定承認(プラスの財産の範囲で負債を負担)
  • 相続放棄(はじめから相続人でなかったことになる)

この3か月間を「熟慮期間」と呼びます。1
期間内に決定をしないと、自動的に「単純承認」とみなされることがあるので注意が必要です。

各承認・放棄の内容と特徴

🔹単純承認(民法920条)

単純承認とは、相続による包括承継の効果をそのまま受け入れることです。単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継することになります。つまり、プラスの財産もマイナスの財産も全てを引き継ぐことになります(920条)。

単純承認とみなされるケース(民法921条)

次のような行為があると、熟慮期間内であっても「単純承認した」とみなされます(921条)。

  • 相続人が相続財産の全部または一部処分したとき2
  • 相続人が熟慮期間内に限定承認または相続の放棄しなかったとき
  • 相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき(相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後を除く)

🔹限定承認(民法922条)

限定承認とは、「相続によって得た財産の限度」でのみ負債を引き受けるという条件付きの相続です(922条)。3万が一、相続財産よりも借金が多かった場合、プラス分を超えて支払う必要がないのがメリットです。

ただし、注意点があります。

  • 共同相続人の全員が共同して行う必要があります(923条)。
  • 家庭裁判所への申述が必要です

🔹相続の放棄(民法938条)

相続の放棄とは、相続の開始により生じる権利義務の承継を一切拒否する意思表示です。

  • 相続放棄をした人は「初めから相続人でなかった」とされます(939条
  • 単独で行うことが可能で、家庭裁判所に申述が必要です

【比較表】承認・放棄の違いまとめ

家庭裁判所への申述相続人が複数の場合効果
単純承認
(920条)
×不要単独で可能無限に承継する
限定承認
(922条)
必要共同相続全員で行う相続財産の限度内で責任を負う
相続の放棄
(938条)
必要4単独で可能遡及して相続人でなかったものとみなされる(939条)

承認・放棄の撤回・取消し(民法919条)

注意すべき点として、承認・放棄は熟慮期間内でも原則として撤回できません919条1項)。

ただし、以下の場合には「取消し」が認められる可能性があります(919条2項)。

相続の承認・放棄は、熟慮期間内でも、撤回することができない919条1項)。

ただし、この取消権は、①追認をすることができる時から6カ月間行使しないとき、②相続の承認または放棄の時から10年を経過したときは、時効によって消滅する(919条3項)。

✅まとめ|相続の承認・放棄と熟慮期間のポイント整理

相続が発生すると、相続人には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択肢があります。
この判断は、相続人が「自分が相続人であると知った時」から**3か月以内(熟慮期間)**に行う必要があります。

  • 単純承認:すべての財産と債務を無制限に承継
  • 限定承認:相続財産の限度内でのみ債務を負担(相続人全員の合意が必要)
  • 相続放棄:最初から相続人でなかったことになる(単独で可能)

承認や放棄は、原則として一度行うと撤回はできません
ただし、未成年者や詐欺・錯誤があった場合には取り消しが認められる余地があります。

  1. 重要判例:「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始の原因事実を知っただけでなく、それによって自己が相続人となったことを知った時でなければならない(大決大15.8.3)。 ↩︎
  2. 参考:保存行為および602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、ここでいう処分には当たらない(921条1項但書↩︎
  3. 具体例:死亡した被相続人の借金が多くて相続財産がマイナスになりそうな場合に、相続人が、とりあえず相続財産がある限りで借金を返済し、もしプラスがあればこれを承継することなど ↩︎
  4. 重要判例:相続放棄の申述をした者は、家庭裁判所がこれを受理した後であっても、相続放棄について錯誤による取消しを主張することができる(最判昭40.5.27) ↩︎
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