民法6:「時効」とは?事例でわかる効力や取得時効と消滅時効の違いなどを解説!

この記事はこんな人におすすめ!
  • 行政書士試験に向けて民法の時効分野をしっかり理解したい受験生
  • 時効制度のしくみを条文ベースで確認したい方
  • 頻出テーマを効率的に学びたい短期合格を目指す方
目次

時効とは?

事例1

Aさんは、Bさんの所有する土地を自分のものだと思い込み、その土地に建物を建てて20年間住み続けていました。

事例2

Aさんは、Bさんから100万円を借りていましたが、その後10年間、Bさんから返済を求められることはありませんでした。

時効とは、実際の権利関係とは異なる状態が長期間継続した場合に、その状態を法律的に尊重し、新たな権利関係を認める制度です。

時効には大きく分けて2つの種類があります。
1つ目は、事例1のように、他人の権利を知らずに長期間その物を占有していた者(Aさん)に、最終的に権利を認める「取得時効」。
2つ目は、事例2のように、長期間権利を行使しなかった者(Bさん)の権利を消滅させる「消滅時効」です。

時効の効力について

◆ 時効の効力が発生するタイミング

時効の効力は、起算日に遡って発生します(144条)。

  • たとえば、事例1のように、AさんがBさんの土地に建物を建てて住み始めた場合、時効が完成すれば、その時点にさかのぼって土地の所有権を取得したとみなされます。

  • また、事例2では、AさんがBさんから100万円を借りたものの、10年間返済の催促がなかった場合、時効が完成すれば借金は借入時点にさかのぼって消滅したとされます。

時効の援用とは?

時効の援用とは、時効の利益を受ける旨の意思表示のことをいいます。時効の完成に必要な期間が経過しても、直ちに自動的に時効の効力が発生するわけではなく当事者が援用しなければ時効の効力は認められません(145条)。

これは、時効の利益を望まない当事者の意思を尊重するためものです。

時効を援用できる「当事者」とは
以下のような立場の人は、「当事者」として時効を援用することが認められます。

  • 主たる債務につき保証人(145条かっこ書
  • 被担保債権につき移条保証人(145条かっこ書
  • 被担保債権につき担保目的物の第三取得者(145条かっこ書
  • 被保全債権につき詐害行為の受益者(最判平10.6.22)

援用できない「当事者に当たらない者」
一方で、次のような者は「当事者」とはされず、援用はできません。

  • 一般債権者(大決昭12.6.30)
  • 先順位抵当権者の被担保債権につき後順位抵当権者(最判平11.10.21)
  • 取得時効が問題となる土地用の建物賃借人(最判昭44.7.15)

時効の利益の放棄

時効の利益の放棄とは、時効の援用とは反対に、時効の利益を受けないという意思表示のことをいいます。

ただし、時効の利益は、あらかじめ放棄することができません(146条)。
これは、例えば、「高利貸しなどによって無理やり時効の利益を放棄させられる」といった事態を防ぐための規定です。1

時効の完成猶予と更新とは?

時効の完成猶予とは、時効の完成が一定期間猶予されることをいいます。この場合、すでに経過した時効期間はそのまま維持され、一時的に時効の進行が停止します。2一時停止

時効の更新とは、それまでに経過した時効期間をリセットされ、新たに時効期間を計算し直されることをいいます。
例えば、裁判上の請求を行うと、時効の完成が猶予されます(147条1項)。
さらに、確定判決によって権利が確定すると、時効の更新が発生し、新たな時効期間が進行することになります(147条2項)。

催告(裁判外での請求)による時効の完成猶予

催告が行われた場合、その時点から6カ月を経過するまでは、時効は完成しません(150条1項)。

また、催告によって時効の完成が猶予されている期間中に再度催告を行っても、新たに時効の完成猶予の効力は生じません(150条2項)。

承認による時効の更新

承認とは、権利の存在を認めていたことを示す行為をいいます。時効は、権利の承認があった時点から、新たに進行を開始します(152条1項)。

時効の完成猶予・更新の効力が及ぶ範囲

時効の完成猶予や更新の効力は、原則として、その事由が発生した当事者およびその承継人の間でのみ認められます(153条)。3

その他の事項の完成猶予事由

時効の完成猶予が認められる場合は以下の通りになります。

時効の完成猶予事由と、完成猶予期間

  • 事由:時効の期間の満了前6カ月以内の間に未成年者・成年被後見人に法定代理人がいないとき(158条1項
    期間:行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6カ月

  • 事由:未成年者・成年被後見人がその財産を管理する父母・後見人に対して権利を有するとき(158条2項
    期間:行為能力者となった時または後任の法定代理人が就職した時から6カ月

  • 事由:夫婦の一方が他の一夫に対して債権を有する時(159条
    期間:婚姻の解消の時から6カ月

  • 事由:債権が属する相続財産について管理する者がいないとき(160条
    期間:相続人が確定した時、管理人が選任された時または破産手続開始の決定があった時から6カ月

  • 事由:時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため裁判上の請求等、強制執行等に係る手続きを行う事ができないとき(161条
    期間:障害が消滅した時から3カ月

取得時効

取得時効には、「所有権の取得時効」と「所有権以外の財産権の取得時効」の2種類があります。

所有権の取得時効

①要件

所有権の取得時効の要件は、以下の要件を満たす必要があります(162条1項・2項)。

  1. 所有の意思をもって
  2. 平穏に、かつ公然
  3. 他人の物を占有し、
  4. 時効期間を経過すること

また、時効期間については以下のように定められています。

  • 善意無過失(占有を始めた時に、対象物が他人の物であることを過失なく知らなかった場合):10年間162条2項

  • 悪意または過失あり20年間162条1項

各要件の説明

  • 所有の意思
    権利の性質から客観的に判断し、所有者としてその物を所持していること。

  • 平穏・公然
    • 平穏:暴力的に占有を奪うことなく取得していること。
    • 公然:占有を隠すことなく、周囲から見ても明らかであること。

  • 他人の物4
    取得時効の対象となる「物」には、不動産だけではなく動産も含まれます。

  • 時効期間(善意無過失)
    善意無過失であれば10年・それ以外の場合は20年が必要です。

👉関連:占有権(占有の承継)

②立証の緩和

10年または20年もの長期間にわたり、所有の意思を持ち平穏・公然に占有していたことや、10年も前の占有の初めに善意であったことを証明するのは容易ではありません。そのため、民法では立証の負担を軽減するための規定が設けられています。

  • 推定規定1186条1項5
    • 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ公然と占有しているものと推定されます。

  • 推定規定2186条2項
    • 前後の2つの時点で占有の証拠がある場合、その間も継続して占有していたもの推定されます。

このような推定規定によって、占有者は長期間の占有を証明しやすくなっています。

占有の承継

取得時効は、自分の前の占有者が有していた「占有期間」と、「占有開始の状態」を引き継ぐことができます。

例えば、Aが悪意で15年間建物を占有した後、Bに建物を引き渡した場合、BはAの占有期間をそのまま引き継ぎます。また、占有開始時の状態もそのまま引き継がれるため、Aが悪意で占有を開始していた場合、Bが善意無過失であっても影響は受けません。

このケースでは、Aの占有期間(15年)と、Bの占有期間をあわせて20年が経過すれば時効は完成するため、Bは5年間占有を続ければ時効は完成し所有権を取得することができます。

gantt
    title Aが悪意、Bが善意無過失の場合 20年で時効完成
    dateFormat  YYYY-MM-DD
    section Aの占有
    A 悪意で15年占有: 2000-01-01, 15y
    section Bの占有
    B 善意で5年占有: 2015-01-01, 5y
  時効完成:milestone, m-3, 2020-01-01, 0d

逆に、Aが善意無過失で占有を開始していた場合、Bが悪意であっても、Bの占有期間が5年を経過すれば時効が完成します。

gantt
    title Aが善意無過失、Bが悪意の場合 10年で時効完成
    dateFormat  YYYY-MM-DD

    section Aの占有
    A 善意で5年占有: 2000-01-01, 5y
    section Bの占有
    B 悪意で5年占有: 2005-01-01, 5y
  時効完成:milestone, m-3, 2010-01-01, 0d
   _:b, 2022-12-26, 2020-01-01
  

所有権以外の財産権の取得時効

所有権以外の財産権にも取得時効が認められています。要件は以下の通りです(163条)。

  • 自己のためにする意思をもって、
  • 平穏に、かつ、公然と、
  • 他人の財産権を行使し、
  • 時効期間を経過すること

時効期間については、所有権の取得時効と同様です。

  • 善意無過失の場合:10年間162条2項

  • 悪意または過失あり20年間162条1項

所有権以外の財産権の取得時効の対象となる権利には、用益物権(地上権永小作権地役権)や質権などがあります。

一方で、法律の規定によって直接成立する権利(留置権先取特権)は、取得時効の対象とはなりません6

消滅時効

消滅時効が完成する期間は、ケース毎に異なります。詳細は下表をご参照ください。

ただし、確定判決7によって確定した権利については、たとえ本来の時効期間が10年より短い場合であっても、一律で10年間と定められています(169条1項)。

これは、公的に確定した債権について、再び短期の時効を適用すると手続きが煩雑になってしまうため、統一的に長期の時効期間を適用する趣旨によるものです。

起算点期間
債権権利を行使することができることを知った時から(主観的期間)5年
権利を行使することができる時から(客観的期間)10年
債権・所有権以外の財産権権利を行使することができる時から20年
所有権消滅時効にかからない8

👉関連記事:相殺(時効と相殺)

【まとめ】時効の基本とその法的意義

時効とは、一定期間ある状態が継続することで、法律関係に変化をもたらす制度です。主に、他人の物を占有し続けることで権利を取得する「取得時効」と、権利を行使しないまま放置することで消滅する「消滅時効」があります。

時効の効力は起算日にさかのぼって発生しますが、自動的に効果が生じるのではなく、原則として援用(意思表示)が必要です。また、時効の利益は完成後であれば放棄も可能です。

時効には進行を一時停止する完成猶予や、ゼロから進行し直す更新といった制度もあり、催告や債務の承認がその典型例です。これらの効果は基本的に当事者間に限られます。

取得時効では所有権地上権などの財産権を取得できることがあり、消滅時効は特に金銭債権の管理において重要な制度です。

  1. 判例:消滅時効が完成した後に、債務者が債務の承認をした場合において、時効完成の事実を知らなかった時は、時効の利益を放棄したものと推定されるわけではないが、以後その完成した消滅時効を援用することは信義則上許されない(最大判昭41.4.20)。 ↩︎
  2. 判例:物上保証人に対する担保不動産競売の申し立てにより、執行裁判所が競売開始決定をし、これが債務者に送達された場合には、債権者の債務者に対する被担保債権について消滅時効の完成が猶予される(最判昭50.11.21)。 ↩︎
  3. 判例:債務者の承認により被担保債権の時効が更新した場合、物上保証人も、被担保債権の消滅時効を援用することができない(最判平7.3.10)。 ↩︎
  4. 重要判例:最判昭42.7.21 所有権に基づいて不動産を占有していた場合(自己の物である場合)でも、取得時効は成立する ↩︎
  5. 重要判例:最判昭46.11.11 これに対して、占有者の無過失は推定されない。 ↩︎
  6. 重要判例:最判昭43.10.8 土地賃借権については、163条の要件に加えて、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときに、時効により取得することができる。 ↩︎
  7. 通常の上訴という手段では取り消すことができない状態に至った判決のこと ↩︎
  8. 重要判例:最判平7.6.9 所有権に基づく登記請求権も、消滅時効にかからない ↩︎
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次