商号とは?
商号とは、商人がその営業上自己を表すために用いる名称のこと。(〇〇商店など)
商号はその商人を表す名称であることから、文字で記載することができ、かつ、呼称できるものでなければならない。つまり、記号や図形を商号とすることはできない。
使用できる商号の個数
会社の場合
会社の商号は、会社の人格を表す名称であることから、会社が複数の営業を行う場合であっても、その商号は1個に限られる。
個人商人の場合
個人商人の場合、数個の営業を営むときには、各営業につきそれぞれ別個の商号を使用することができる。
ただし、1個の営業につき、商号は1個に限られる(これを商号単一の原則という。1個の営業につき数個の商号の使用を認めると、営業の同一性につき誤認されるおそれがあるため。
商号の選定
商人は、原則として、商号を自由に選ぶことができる(これを商号選定自由の原則という)。しかし、例外的に以下のような制限がある、
- ①営業の主体を誤認させる商号選定の禁止
-
不正の目的をもって、他の商人であると誤認させるおそれのある名称または商号を用いてはならない(12条1項)。
- ②会社の商号に関する制限
- ③個人商人の商号に関する制限
-
会社でない者は、その名称または商号中に、会社であると誤認させるおそれのある名称または商号を使用してはならない(会社法7条)。
商号の不正使用に対する措置
不正の目的をもって他の商人であると誤認させる商号の使用によって利益を侵害され、または侵害されるおそれがある商人は、その営業上の利益を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止または予防を請求することができる(12条2項)。
※参考:自らの商号について登記していなくても、侵害の停止または予防を請求することができる。
名板貸(ないたがし)
名板貸とは?
sequenceDiagram autonumber actor 名板貸人A actor 名板借人B actor 相手方C note over 名板貸人A: A商店 名板貸人A ->> 名板借人B:商号使用の許諾 note over 名板借人B: A商店を名乗る 名板借人B ->> 相手方C:取引 相手方C ->> 相手方C:Aと誤認 相手方C ->> 名板貸人A:請求
商人Aが、商人Bに対してAの商号をもって営業を行うことを許諾したところ、Aの商号を使用したBと取引をした相手方Cは、当該取引を自己とAとの取引であると誤認した。
この事例の場合、契約は実際に取引をしたBとCの間で成立するので、CはBに対してのみ取引によって生じた債務の弁済を請求できるのが原則である。
しかし、BがAの商号を使用したため、Cは自己とAとの取引であると認識しているわけなので、CからすればAに対しても債務の弁済を請求したいと思う。
そこで、自己の商号を使用して営業を行うことを他人(名板借人B)に許諾した商人(名板貸人A)は、自己が営業を行うものと誤認して当該他人と取引した者(相手方C)に対し、当該他人と連帯して、その取引によって生じた債務を弁済する責任を負わなければならない(14条)。これは、名板貸人を営業主と信じて取引関係に入った相手方と保護するもの。
名板貸人の責任の要件
名板貸人の責任が発生するための要件は、以下の3つ。
名板貸人の責任の範囲
名板貸人が、名板借人と連帯して責任を負う債務は、「取引によって生じた債務」である。これには、取引によって直接生じた債務のほか、その不履行による損害賠償債務等の本来の債務が変形したものも含まれる。34
商号の譲渡
商人の商号は、営業とともにする場合または営業を廃止する場合に限り、譲渡することができる(15条1項)。商号が営業上の名称として社会的・経済的に信用を集める機能を有するものであることから、商号を営業と切り離して個別に譲渡することは認められていない。
そして、商号の譲渡は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(15条2項)。
- 重要判例:営業が同種であるからこそ営業主体の誤認が生じるため、名板貸人の責任が成立するためには、特段の事情のない限り、名板貸人の営業と名板借人の営業が同種であることが必要である(最判昭43.6.13)。 ↩︎
- 重要判例:「誤認」とは、相手方の善意無重過失を意味する(最判昭41.1.27)。 ↩︎
- 重要判例:名板借人の詐欺的行為のような取引行為の外形をもつ不法行為(取引的不法行為)に基づく損害賠償債務は、「取引によって生じた債務」に当たる(最判昭58.1.25)。 ↩︎
- 重要判例:名板借人による交通事故のような事実的不法行為に基づく損害賠償債務は、「取引によって生じた債務」に当たらない(最判昭52.12.23)。 ↩︎