商法1-3:「商号」とは?意味・ルール・名板貸の仕組みまでわかりやすく解説

🎯この記事はこんな人におすすめ
  • 行政書士試験で「商号」に関する知識を押さえたい人
  • 商法の基本用語や考え方をやさしく学びたい人
  • 商号・名板貸・商号譲渡のルールを実務的に理解したい人
目次

商号とは?簡単に言うと…

商号とは、「商人が営業上、自分を表すために使う名前」のことです。
たとえば、「〇〇商店」「〇〇製作所」といった屋号のようなものが商号にあたります。

商号は以下のようなルールがあります:

  • 文字で表示できること(記号・絵・図形などはNG)
  • 発音・呼称ができること

つまり、口頭で伝えられ、紙などに書ける名称でなければなりません。

商号の数は何個まで使える?【会社と個人商人で違いあり】

🔷会社の場合

会社の商号は「法人格(=会社という存在)」を表す名前です。
そのため、たとえ複数の営業所・事業を持っていても、商号は1つだけしか使えません。

🔷個人商人の場合

個人で事業を営む商人は、営業ごとに別々の商号を使うことが可能です。
ただし、1つの営業につき商号は1つまでとされています(これを「商号単一の原則」といいます)。
1つの営業に複数の商号を使うと、取引相手に混乱を与えるおそれがあるからです。

個人商人の場合、数個の営業を営むときには、各営業につきそれぞれ別個の商号を使用することができます。

商号は自由に決められる?【原則は自由、例外に注意】

商号は基本的に自由に選べます
この考えを「商号選定自由の原則」といいます。

ただし、以下のような例外的な制限もあります。

① 他人と誤認させるような商号は禁止

不正の目的をもって、他の商人であると誤認させるおそれのある名称または商号を用いることは禁止されています(12条1項)。

② 会社の種類ごとに必要な文字がある

会社法では、各会社の種類に応じて、商号の中に「株式会社」「合同会社」などを含める必要があります(会社法6条2項)。

さらに、別の種類の会社と誤解されるような文字は使用できません(会社法6条3項)。

条文
③ 個人商人が「会社っぽい」商号を使うのはNG

会社ではない個人が、「株式会社」などの文字を商号に含めてはいけません。
取引相手を混乱させるため、これも禁止です(会社法7条)。

条文

会社でない者は、その名称または商号中に、会社であると誤認させるおそれのある名称または商号を使用してはならない(会社法7条)。

不正な商号の使用にはどう対応する?

不正の目的をもって他の商人であると誤認させる商号の使用によって利益を侵害され、または侵害されるおそれがある商人は、その営業上の利益を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止または予防を請求することができます(12条2項)。

ポイント:自らの商号について登記していなくても、侵害の停止または予防を請求可能です。

名板貸(ないたがし)とは?他人に商号を貸すリスクと責任

名板貸のイメージ事例
sequenceDiagram
autonumber

actor 名板貸人A
actor 名板借人B
actor 相手方C

note over 名板貸人A: A商店

名板貸人A ->> 名板借人B:商号使用の許諾
note over 名板借人B: A商店を名乗る
名板借人B ->> 相手方C:取引
相手方C ->> 相手方C:Aと誤認
相手方C ->> 名板貸人A:請求


①商人Aが、自分の商号をBに使わせて営業させた
②Bと取引したCは、「Aと取引している」と誤解した
このような場合、契約はBとCの間で成立します。
しかし、Cから見ればAも責任を取ってほしいと思うかもしれません。

そこで、自己の商号を使用して営業を行うことを他人(名板借人B)に許諾した商人(名板貸人A)は、自己が営業を行うものと誤認して当該他人と取引した者(相手方C)に対し、当該他人と連帯して、その取引によって生じた債務を弁済する責任を負わなければならない(14条)。これは、名板貸人を営業主と信じて取引関係に入った相手方と保護するもの。

▶名板貸人(A)の責任

Aが商号の使用を許していた場合、AもBと連帯して責任を負うことになります(14条)。
これは、取引相手Cを保護するための制度です。

▶責任が発生する要件(3つ)

  1. 名板借人(B)が板貸人(A)の商号を使って営業していた1
  2. 板貸人(A)が名板借人(B)にその商号の使用を許していた
  3. 相手方(C)が板貸人(A)を営業主だと誤認して取引した2

この3つがそろえば、Aは連帯して責任を負います。

名板貸人の責任の範囲

名板貸人が、名板借人と連帯して責任を負う債務は、「取引によって生じた債務」です。
これには、取引によって直接生じた債務のほか、その不履行による損害賠償債務等の本来の債務が変形したものも含まれます。34

商号の譲渡はできる?

商号は、「営業とセット」または「営業を廃止する場合」であれば譲渡が可能です(15条1項)。
具体的には:

  • 営業を誰かに譲るとき
  • 営業をやめるとき

このようなときに限って、商号の譲渡ができます。

商号だけを単独で譲渡することはできません。

さらに、譲渡した商号を第三者に対抗(主張)するためには登記が必要です(15条2項)。

✅まとめ

項目ポイント
商号とは商人の営業上の名前。文字で記載・発音できる必要あり
商号の数会社は1個のみ。個人商人は営業ごとに別の商号可
商号の自由原則自由だが、誤認させる名称などは禁止
名板貸他人に商号を貸すと連帯責任を負うことがある
商号の譲渡営業と一緒に譲渡可。第三者に主張するには登記が必要
  1. 重要判例:営業が同種であるからこそ営業主体の誤認が生じるため、名板貸人の責任が成立するためには、特段の事情のない限り、名板貸人の営業と名板借人の営業が同種であることが必要である(最判昭43.6.13)。 ↩︎
  2. 重要判例:「誤認」とは、相手方の善意無重過失を意味する(最判昭41.1.27)。 ↩︎
  3. 重要判例:名板借人の詐欺的行為のような取引行為の外形をもつ不法行為(取引的不法行為)に基づく損害賠償債務は、「取引によって生じた債務」に当たる(最判昭58.1.25)。 ↩︎
  4. 重要判例:名板借人による交通事故のような事実的不法行為に基づく損害賠償債務は、「取引によって生じた債務」に当たらない(最判昭52.12.23)。 ↩︎
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次