民法2-2:「意思表示」と「意思表示に欠陥がある場合」とは?

目次

意思表示とは?

意思表示とは、表意者が特定の法律効果の発生を望んで、その意思を外部に示す行為です。

意思表示は通常、次の過程を経て行われます。

動機
効果意思

※法律効果を発生させようとする意思

表示意思
表示行為

なお、動機自体は意思表示には含まれません。

もし意思表示に欠陥がある場合、その効力が認められるべきかどうかが問題となります。

意思表示に欠陥がある場合

心裡留保(しんりりゅうほ)

心裡留保とは、表意者が表示行為を行いながら、その真意とは異なる意思を持っている場合を指します。

原則として、心裡留保による意思表示は有効とされています(93条1項本文)。
これは、虚偽の意思表示をした者よりも、それを信じた相手方の保護を優先すべきであるためです。

しかし、相手方が表意者の真意でないことを知っていた、または知ることができた場合には、相手方を保護する必要がないため、例外的に無効とされます(93条1項但書)。

事例

ABに対して、あげる気もないのに自分の車を譲るといった。Bは、Aが本当はあげる気がないことを知りながら、車をもらい、その後、Cに売却した。

この場合、BはAが本当はあげる気がないことを知っているので、贈与は無効となる。

しかし、心裡留保の無効は、善意の第三者であるCに対抗することができない(93条2項)。

なぜなら、心裡留保を行ったものは権利を失ったとしても自業自得といえるとともに、第三者の信頼を保護しなければ取引の安全が害されるため。

虚偽表示

虚偽表示とは、表意者が相手方と示し合わせて、実際の意思とは異なる意思表示を行うことを指します。
民法94条1項により、虚偽表示は無効とされています。これは、表意者と相手方の双方が、意思表示を虚偽であることを認識しており、どちらも法的に保護する必要がないためです。

重要判例:最判昭56.4.28

財団法人(一般財団法人)の設立に際して、設立関係者全員の通謀に基づいて、出捐者が出捐の意思がないにもかかわらず一定の財産の出捐を仮装して虚偽意思表示を行った場合、法人設立のための当該行為は相手方のない単独行為であるが、民法94条の類推適用により財団法人の設立の意思表示は無効となる。

事例

Aは自己所有の土地に強制執行がなされることを察知したが、この土地を他人に渡したくないので、Bに頼んでBがこの土地を買ったことにし、登記を移転した。その後、Bは、善意のCに対してこの土地を売却した。

虚偽表示の無効は善意の第三者(C)に対抗することができません(94条)。
これは、虚偽の意思表示を行った者が権利を失ったとしても自己責任であるといえること、また、第三者の信頼を保護しなければ取引の安全が損なわれるためです。

重要判例:大判昭12.8.10

94条にいう「善意」とは、過失の有無を問わない

なお、94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者またはその一般承継人以外の者であって、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者とされています(最判昭45.7.24)

  • 「第三者」に該当する
    1. 虚偽表示により目的物を譲り受けた者から、その目的物について抵当権の設定を受けた者
    2. 虚偽表示により債権と作出した者から当該仮想債権を譲り受けた者(大判昭13.12.17)
    3. 虚偽表示により目的物を譲り受けた者からさらに目的物を譲り受けた転得者(最判昭45.7.24)
    4. 虚偽表示により譲り受けた目的物を差し押さえた仮想譲受人の一般債権者(最判昭48.6.28)

  • 「第三者」に該当しない
    1. 虚偽表示により債権を譲り受けた者から、取立てのために当該債権を譲り受けた者(大決大9.10.18)
    2. 土地の賃借人が所有する地上建物を仮に仮装譲渡した場合の土地賃借人(最判昭38.11.28)
    3. 土地の仮装譲渡人から当該土地上の建物を賃借した者(最判昭57.6.8)
事例

Aが土地を所有していたところ、BはAの実印と権利書を盗み、この土地の登記名義をBに移した。その後、Bはこの土地をCに売却し、登記を移転した。Aはこれを知りつつ放置していた。

この事例では、A・B間に通謀がないので、94条2項を直接適用することはできません。
しかし、CはBが土地の所有者であると信じて取引を行っており、もしCが土地を取得できなければ取引の安全が損なわれてしまいます。
そこで、登記の真の所有者以外の者の名義になっているにもかかわらず、真の所有者がその状態を放置していた場合、登記名義人を真の所有者であると信じた第三者を保護するために、94条2項類推適用されます(最判昭45.9.22)。

これは、94条2項「権利外観法理1の一例とされており、このようなケースにも権利外観法理が適用されるためです。

錯誤

錯誤とは、法律行為をするときに、本人の「こういう効果を生じさせたい」という意思(効果意思)と、実際の言葉や行動(表示行為)が食い違っているのに、その本人がそのことに気づいていない状態のことをいいます。錯誤には、大きく分けて2つの種類があります。

  1. 表示の錯誤
    これは、意思表示が本人の意思と一致していない場合の錯誤です。
    例:文庫本の下巻を買うつもりだったのに、うっかり上巻をレジに持って行って買ってしまったような場合です。

  2. 動機の錯誤
    これは、本人が法律行為の基礎にした事情について、事実とは違う認識をしていた場合の錯誤です。
    例:「近くに駅ができる」と聞いて、土地の価値が上がると思って相場より高く土地を買ったけれど、あとでその駅の建設計画が中止になったという場合です。

錯誤による意思表示の取消し

表示意思は、
①錯誤(表示の錯誤、動機の錯誤)に基づくものであって、
②その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、
取り消すことができるとされています(95条1項)。

ただし、「動機の錯誤」の場合には、その事情が法律行為の基礎とさえていることが表示されていたときに限り、取り消すことができます(95条2項)。その場合、表示は明示的なものであるか黙示的なものであるかを問いません。

なお、錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、原則として、意思表示の取消しをすることができない(95条3項柱書)。なぜなら、錯誤に陥るについて重大な過失があった場合、表意者を保護する必要がないため。

ただし、①相手方が表意者に錯誤があることを知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合93条3項1号)、②相手方が法医者と同一の錯誤に陥っていたとき(93条3項2号)には、意思表示の取消しをすることができます。

なお、錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できません(94条4項)。

重要判例:大判大7.12.3

相手方が、表意者に重大な過失があったことについて、主張・立証しなければならない

詐欺による意思表示

詐欺とは、相手をだます行為(欺罔行為)によって錯誤に陥らせ、その結果、意思表示させることをいいます。

事例

Aは、Cの詐欺により、自己所有の土地をBに売ったが、Bは詐欺の事実を知らず、また、知ることもできなかった。

相手方(B)に対する意思表示について第三者(C)が詐欺を行った場合には、相手方がその事実知り、または知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができます(96条2項)。

したがって、相手方Bが詐欺の事実を知らず、また知ることもできなかったような場合には、Aは、意思表示を取り消すことができません。

事例

AがBの詐欺により自己所有の土地をBに売却し、Bが詐欺の事実を過失なく知らないCにこの土地を転売した後、AがBとの土地の売買契約を取消して、Cに対して土地の返還を請求した。

また、詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者(C)には対抗することができません(96条3項)。

そのため、先ほどの事例では、Aは土地の返還を請求することができないことになります。

なお、96条3項の趣旨は、取消しによってその効果が最初に遡って消える「遡及効」(121条)によって第三者が不利益を受けることを防ぐ点になります。したがって、ここにいう「第三者」とは、取消しの前に利害関係を持った者、つまり取消しの遡及効によって影響を受ける第三者、すなわち取消前の第三者に限られると解されています(大判昭17.9.30)。

重要判例:最判昭49.9.26

96条3項の「第三者」は、対抗要件を備えた者に限定されない。

強迫による意思表示

強迫とは、他人に畏怖(恐怖心)を与え、その畏怖によって意思表示をさせることをいいます。

強迫の場合は、詐欺の場合よりも本人の意思形成に対する影響が大きいため、強迫を受けた人(表意者)は詐欺の場合よりも手厚く保護されることになります。

第三者が詐欺・脅迫をした場合善意無過失の第三者への対抗
詐欺相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたときに限り、意思表示を取消すことができる(96条2項)。詐欺による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗できない(96条3項)。
強迫相手方が強迫の事実を過失なく知らなかったとしても、意思表示を取消すことができる(96条2項反対解釈)。強迫による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができる(96条3項反対解釈)。
  1. 真の権利者が自分以外の者が権利者であるかのような外観を作り出したときは、それを信頼した第三者は保護されるべきであり、自らその外観を作った権利者は権利を失ってもやむを得ないとする理論。 ↩︎
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