会社法4-6:取締役

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取締役とは?

取締役会非設置会社の場合、取締役は、会社の業務を執行する機関。一方で、取締役会設置会社の場合、取締役は、単なる取締役会の構成員にすぎず、会社の業務を執行する機関ではない。

株主は、経営に興味がない場合や経営の能力がない場合がほとんどなので、自分で会社の経営をせずに、経営のプロである取締役を選任してその人に経営を任せる方が望ましいといえる。これを所有と経営の分離という。

そこで、公開会社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができないとされている(331条2項本文)。もっとも、非公開会社では、このような定款の定めをすることもできる(331条2項但書)。

取締役の資格

以下の者は、取締役になることができない(331条1項)。

  • 法人
  • 会社法秩序に関する犯罪を犯し、刑に処せられて間もない者
  • その他の法令違反により禁錮以上の刑に処せられ、刑の執行が終わっていない者

なお、成年被後見人が取締役に就任するには、その成年後見人が、成年被後見人の同意(後見監督人がある場合は後見監督人の同意も必要)を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をする(331条の2第1項)。

また、被保佐人が取締役に就任するには、その補佐人の同意を得なければならない(331条の2第2項)。

取締役の員数

取締役会を設置しない会社であれば、1人でも足りるが、取締役会設置会社では3人以上必要(331条5項)。

取締役の選任

取締役は、株主総会の普通決議によって選任される(329条1項341条)。

取締役の終任

任期満了

取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(332条1項本文)。ただし、定款または株主総会決議で短縮することは可能(332条1項但書)。

株主総会決議による解任

取締役は、いつでも、株主総会の普通決議により解任することができる(339条1項341条)。

もっとも、累積投票1により選任された取締役または監査等委員である取締役であれば株主総会の特別決議が必要(309条2項7号)。

株主総会の決議によって解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる(339条2項)。

取締役解任の訴え

取締役の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該取締役を解任する旨の議案が株主総会で否決された場合には、株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該取締役の解任を請求できる(854条1項)。

ただし、総株主の議決権の100分の3以上の議決権または発行済株式総数の100分の3以上の株式を6か月前から引き続き有する株主でなければ請求することができない(非公開会社では、6カ月間の継続保有要件は不要)。

取締役に欠員が生じた場合

旧取締役の職務執行

取締役が欠けた場合または会社法・定款で定めた取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了または辞任により大赦した取締役は、新たに選任された取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有することになる(346条1項)。

一時取締役(仮取締役)

上記の場合、裁判所は、必要があると認める時は、利害関係人の申立てにより、一時的に取締役の職務を行うべき者を選任することができる(346条2項)。

※一時的に取締役の職務を行うべき者が株式会社の常務に属しない行為をする場合、裁判所の許可を得る必要はない。

取締役の権限

取締役の権限は、会社の期間設計によって異なる。

①取締役会非設置会社の場合

取締役非設置会社では、定款に別段の定めがない限り、会社の業務執行は各取締役が行う(348条1項)。ただし、取締役が2人以上いる場合には、定款に別段の定めがない限り、取締役の過半数をもって業務執行の意思決定をする(348条2項)。

また、取締役が2人以上いる場合であっても、各取締役が単独で会社を代表するのが原則(349条2項)。

※取締役非設置会社の取締役は、代表取締役が他に選定されても、業務執行権は当然には消滅しない。

②取締役会設置会社の場合

個々の取締役は、取締役会の一構成員として決議に参加するだけで、独立に業務執行権や会社代表権を有するわけではなく、代表取締役が業務執行権や代表権を有する。

もっとも、業務執行取締役2は、個々の業務執行権を有している(2条15号イかっこ書363条1項2号)。

取締役の義務

善管注意義務・忠実義務

取締役と会社とは委任の関係に立つことから(330条)、取締役はその職務を行うにあたり、会社に対して善管注意義務を負う(民法644条)。また、取締役は、会社に対して忠実義務を負う(355条)。3

競業避止義務

取締役が会社の事業と競合する事業を行うと、会社のノウハウや顧客情報を奪われるおそれがあり、会社の利益を害する危険性が大きいため、取締役は、自己または第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引(競業取引)をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社の場合、取締役会)において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない(356条1項1号365条1項)。

また、取締役会設置会社の場合、競業取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない(365条2項)。

利益相反取引

取締役が自己または第三者のために株式会社と取引する場合(直接取引356条1項2号)、会社の利益を害する危険性が大きい。このような取引を利益相反取引という。4

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config:
  theme: neutral
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flowchart RL
会社 <-->|直接取引| 取締役
債権者 -->|主たる債務| 取締役
債権者 -->|保証契約_間接取引| 会社

取締役は、利益相反取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)で、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認をうけなければならない(356条1項2号・3号365条1項)。

また、取締役会設置会社の場合、利益相反取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない(365条2項)。

なお、会社の承認の有無を問わず、利益相反取引が行われ会社に損害が生じた場合には、以下の者の任務懈怠(にんむけたい)が推定されることになる(423条3項)。5

任務懈怠が推定される者

  • 利益相反取引を行った取締役・執行役
  • 会社が利益相反取引をすることを決定した取締役・執行役
  • 利益相反取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役

取締役の報酬等

取締役の報酬等の額、具体的な算定方法または報酬等の具体的な内容については、定款に当該事項の定めがあるときを除き、株主総会決議によって定める(361条1項)。取締役の報酬等の決定は業務執行に係る事項につき、取締役が自ら報酬を決定するのでは過大な報酬となるおそれが大きいことから、定款または株主総会で決定するものとされている。

  1. 累積投票:株主に対して選任する取締役の数と同数の議決権を与えて、株主は、1人のみに投票するかまたは2人以上に投票して、その中で最多数を得た者から順次取締役に選任されるものとする方法 ↩︎
  2. 業務執行取締役:取締役会の決議によって会社の業務を執行する取締役として選定された者。 ↩︎
  3. 判例:善管注意義務と忠実義務は、別個の義務ではない(最大判昭45.6.24) ↩︎
  4. 参考:直接取引について会社の承認を得た場合には、民法108条1項(自己契約・双方代理の禁止)は適用されない(356条2項)。 ↩︎
  5. 参考:監査等委員会設置会社の取締役の利益相反取引により株式会社に損害が生じた場合でも、当該取締役(監査等委員であるものを除く)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、当該取締役が任務を怠ったものと推定されない(423条4項)。 ↩︎
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