商人間の売買契約
商人間の売買契約については、取引の安全・売主の保護という観点から、民法の売買契約に関する規定とは異なる特則が定められている。
売主による目的物の供託・競売
民法では、買主が売買の目的物を引き取ってくれない場合、売主は、その目的物を供託することができる(民法494条1項1号)。また、売買の目的物が供託に適さない場合、裁判所の許可を得て、競売することができる(民法497条)。
しかし、裁判所の許可には時間がかかり、売主にとって不利となる。そこで、商人間の売買においては、供託のみならず競売もすることができるものとされ、競売の際に相当の期間を定めて催告をすれば、裁判所の許可を得る必要はない(524条1項前段)。
そして、売買の目的物を競売に付した時は、売主は、その代価を供託しなければならないが、その代価の全部または一部を代金に充当することを妨げないとされている(524条3項)。
定期売買の履行遅滞による解除
民法では、提起売買の時期を経過したため契約を解除する場合には、相手方に対して解除の意思表示をしなければならない(民法540条1項、542条1項4号)。
しかし、解除の意思表示を必要とすると、解除の意思表示がされるまでは売主は不安定な地位に置かれることになる。そこで、商人間の売買については、相手方が直ちに、履行の請求をしない限り、当然に契約の解除したものとみなすこととして、解除の意思表示を不要としている(525条)。
買主による目的物の検査・通知
民法上の売買契約においては、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合(契約内容不適合)、買主は、売主の担保責任を追及することができる(民法562条1項)。
これに対して、商人間の売買契約においては、契約内容不適合があっても、受け取った目的物を遅滞なく検査し、契約内容不適合を発見した場合には直ちに売主に対して通知をしなければ、売主の担保責任を追及することができない(526条1項、2項前段)。これは、売主が不安定な立場に置かれることを防止して、売主を保護するため。1
買主による目的物の保管・供託
民法では、売買の目的物に契約内容不適合が存在したため契約が解除されたとしても、買主は、その目的物の返還義務を負うにすぎず(民法545条1項本文)、目的物を保管・供託する義務はない。
しかし、買主が目的物を適切に保管等しないと、売主は転売の機会を失ってしまう。そこで、商人間の売買においては、売買の目的物に契約内容不適合が存在したため契約が解除された場合でも、買主は、売主の費用で、売買の目的物を保管・供託しなければならない(527条)。また、品違いや数量超過分についても同様とされる(528条)。
ただし、売主および買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内になる場合には、保管・供託する義務はない(527条4項)。