登記を対抗要件とする物権変動
取消しと第三者
- ①取消前の第三者
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事例1
制限行為能力や強迫を理由として契約を取り消した場合、取消し前の第三者が善意無過失であったとしても、登記がなくても対抗することができます。
一方で、錯誤や詐欺を理由として契約を取り消した場合は、善意無過失の第三者に対抗することができません(95条4項、96条3項)。
したがって、事例1では、登記の有無によって土地の所有権が決まるわけではありません。
- ②取消後の第三者
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事例2
Aは、Bの詐欺により自己所有の土地をBに売却し、所有権移転登記をした。その後、Aは騙されたことに気付き、AB間の売買契約を取り消したが、登記がBのところにある間に、BはCに転売した。
取消権者は、登記をしなければ第三者に対して所有権の復帰を対抗することができません(大判昭17.9.30)。そのため、事例2では、AはCに対して土地の返還請求をすることができません。
これは、取消しが行われた時点で、B→Aの所有権の復帰があったものとして扱われるためです。その結果、Bを起点としたA・C間の二重譲渡の関係が生じ、対抗関係の問題となるからです。
解除と第三者
- ①解除前の第三者
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事例3
Aが自己所有の土地をBに売却し、BがCにこの土地を転売した後、Aは、Bが土地の代金を支払わないため、Bとの間の土地の売買契約を解除した。
当事者の一方が解除権を行使すると、双方の当事者は相手方に対して、契約前の状態に戻す義務(原状回復義務)を負います(545条1項本文)。ただし、この原状回復義務を理由に、第三者の権利を害することはできません(545条1項但書)。
しかし、第三者が保護をうけるためには、その権利について登記を備えている必要があります(大判大10.5.17・最判昭33.6.14)。
- ②解除後の第三者
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事例4
Aは、自己所有の土地をBに売却したが、Bが土地代金を支払わないため、Bとの間の土地の売買契約を解除した。その後、BはCに土地を転売した。
不動産の売買契約が解除され、所有権が売主Aに戻った場合、売主Aはその登記を完了しなければ、契約解除後に買主Bから不動産を取得した第三者Cに対して対抗することができません(最判昭35.11.29)。
これは、解除が行われた時点で、B→Aの所有権の復帰があったものとして扱われるためです。その結果、Bを起点とするA・Cの二重譲渡の関係が生じ、対抗関係の問題となるからです。
取得時効と第三者
- ①時効完成時の所有者
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事例5
AはBの所有していた土地の所有権を時効により取得した。
不動産を時効によって取得した占有者Aは、元の所有者Bに対して、登記がなくても時効取得を主張することができます(大判大7.3.2)。
これは、時効取得者Aが元の所有者Bから不動産を譲り受けたのと同じように扱われるためです。
- ②時効完成前の第三者
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事例6
BがCに対して自己所有の土地を売却した後、Aがこの土地の所有権を時効により取得した。
不動産を時効によって取得した占有者Aは、取得時効が完成する前に当該不動産を譲り受けた第三者Cに対しても、登記がなくても時効取得を主張することができます(最判昭41.11.22)。
これは、時効取得者Aが時効完成前の第三者Cから不動産を譲り受けたのと同じように扱われるためです。
- ③時効完成後の第三者1
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事例7
AがBの所有していた土地の所有権を時効により取得した後、Bがこの土地をCに売却した。
不動産を時効によって取得した占有者Aは、取得時効が完成した後に当該不動産を譲り受けた第三者Cに対しては、登記をしなければ時効取得を主張することができません(最判昭33.8.28)。
これは、元の所有者Bを起点として、時効取得者Aと時効完成後の第三者Cに対する二重譲渡の関係が生じ、対抗関係の問題となるためです。
重要判例1:最判平18.1.17 ※Aが登記なくても対抗できる場合
不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けた第三者が、時効取得者が多年にわあり当該不動産を占有している事実を認識し、時効取得者の登記の欠缺を主張することが信義則に反すると認められる事情が存在するときは、当該第三者は背信的悪意者に当たり、時効取得者は登記がなくても時効取得をもって対抗できる。
重要判例2:最判昭36.7.20 ※Aが登記なくても対抗できる場合
占有者が第三者の登記後になお引き続き時効取得に必要な期間、占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記が無くても対抗できる
重要判例3:最判平24.3.16
不動産の取得時効の完成後、占有者が登記をしないうちに、その不動産につき第三者のために抵当権設定登記がなされた場合であっても、その占有者が、その後さらに時効取得に必要な期間、占有を継続した時は、特段の事情がない限り、占有者はその不動産を時効により取得し、その結果、抵当権は消滅する。
相続と第三者2
- ①共同相続と登記
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事例8
Aが死亡しBCが2分の1ずつ共同相続した土地を、Cが勝手に単独所有権取得の登記をした後、この土地Dに譲渡し、登記も移転した。
相続財産に含まれる不動産について、相続人Cが単独所有権移転の登記を行い、その後Cから登記を引き継いだ第三者Dに対して、他の相続人Bは登記がなくても自己の持ち分を主張することができます(最判昭38.2.22)。
これは、CがBの持ち分を勝手に自己名義に登記して譲渡したとしても、C自身が無権利者であるため、Dもその権利を取得することができず、結果としてDも無権利者となるからです。
- ②遺産分割と登記
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事例9
Aが死亡しBC両名が2分の1ずつ共同相続した土地について、BC間の遺産分割協議によりBがこの土地の単独所有権を取得することとされた後、Cが自己の法定相続分に応じた持ち分をDに売却した。
遺産分割によって相続分とは異なる権利を取得した相続人Bは、その内容の登記をしなければ、分割後に当該不動産を取得した第三者Dに対して、自分の権利を主張することができません(最判昭46.1.26・899条の2第1項)。
これは、遺産分割の効力は相続開始時にさかのぼるものの(909条本文)、第三者との関係では、いったん相続によって取得した権利が分割によって新たに変更されるのと変わらないためです。その結果、Cを起点としたB・Dの二重譲渡に類似した関係となるため、登記が必要とされます。
- ③相続放棄と登記
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事例10
Aが死亡しBC両名が2分の1ずつ共同相続するはずであったが、Cは、相続を放棄した後、自己の法定相続分に応じた持ち分をDに売却した。
相続放棄の効力は絶対的であり、だれに対しても登記がなくてもその効力を主張することができます(最判昭42.1.20)。そのため、Bは、登記をしなくても、Dに対して土地の単独所有権の取得を主張することが可能です。
相続放棄が遺産分割と異なり絶対的な効力を持つのは、相続放棄は相続開始後の短期間にのみ可能であり(915条1項本文)、その間に第三者が現れる可能性が低いためです。
物権変動インデックス
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