先取特権とは?
flowchart LR A("A<br>債務者<br>資金10万円") B("B<br>債権者<br>先取特権") 銀行 B -->|給料債権_10万円| A 銀行 -->|貸金債権_90万円| A
Aは、Bをパートとして雇い、製造業を営んでいたが、経営に行き詰ったため、Bの今月分の給料10万円をしはらっていなかった。また、Aは銀行からも90万円借りており、こちらも返済していなかった。
Aは、現在の手持ち資金が10万円しかない。
債権者が複数いる場合で、債務者の財産が債権の総額に満たないとき、原則として各債権者は自分の持っている債権額に応じて平等に分配をうけることになります。これを「債権者平等の原則」といいます。
この原則に従うと、上の事例ではBが10万円の給料債権を持ち、銀行が90万円貸金債権を持っている場合、Bは1万円、銀行は9万円の分配を受けることになります。しかし、この場合、Bは1か月分の給料として1万円しか受け取れず、生活が困難になってしまいます。
そこで、給料債権のように特に保護すべき債権を持つ者は、債務者の財産から、他の債権者よりも優先して弁済弁済をうけることができます(303条)。この権利を先取特権といいます。
その結果、上の事例では、Bは銀行よりも優先して、10万円全額の分配をうけることができます。

先取特権の種類
先取特権は、以下の3つに分類されます。
一般先取特権
一般先取特権の被担保債権には、次の4種類があります。(306条)。
- 共益の費用
- 雇用関係
- 葬式の費用
- 日用品の供給
これらの債権が小口のものに限定されている理由は、一般先取特権が債務者の総財産を対象とする担保物件であり、公示の制度もないため、大きな債権を担保すると他の債権者との公平を害してしまうからです。
動産先取特権
以下のような場合に生じた債権を持つ者は、債務者の特定の動産について先取特権を有します(311条)。1
なお、動産先取特権は、債務者がその目的である動産を第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができません(333条)。2
不動産先取特権
不動産の保存・工事・売買によって生じた債権を持つ者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有します(325条)。
効力
優先弁債権
先取特権の最も重要な効力は優先弁済権です。これは、目的物を強制的に換価し、他の債権者よりも優先して弁済を受ける権利を指します。3
物上代位
先取特権は、目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができます(304条1項本文)。これを物上代位といいます。
ただし、物上代位を行うためには、払渡しや引渡しがされる前に差押えをしなければなりません(304条1項但書)。4
- 重要判例:動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部または一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる(最決平10.12.18) ↩︎
- 重要判例:動産売買先取特権の存在する動産が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合、譲渡担保権者は「第三取得者」に該当する(最判昭62.11.10) ↩︎
- 参考:不動産賃貸の先取特権は、動産売買の先取特権に優先する(330条1項1号・3号) ↩︎
- 重要判例:動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債券が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後は、自ら目的債券を差し押さえて物上代位権を行使することができない(最判平17.2.22) ↩︎