行政救済法とは?行政による権利侵害への2つの救済方法
国や地方公共団体の行政作用によって、私たち国民の権利が侵害されることがあります。そのようなとき、国民を救済するための手段が「行政救済法」です。
行政救済には大きく分けて以下の2つがあります。1
- 行政作用について争い、その行政作用を無かったことにする争訟による救済
- 行政作用については争わなず、損害を金銭で穴埋めしてもらう金銭による救済
① 争訟による救済(行政の処分を争う)
行政の処分そのものを取り消したり無効にしたりすることで、被害を回復しようとする方法です。これには以下の2つの制度があります。2
※原則として、どちらの手段を使うかは自由に選択できます(自由選択主義)。
それぞれのメリット・デメリットは次の通りです。
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
行政不服申立て | スピーディーに解決できる | 行政機関が判断するため、行政に有利な判断がなされがち |
行政事件訴訟 | 裁判所による公正な判断 | 解決に時間を要する |
②金銭による救済(損害をお金で補う)
行政の処分自体は争わないけれど、その処分によって生じた損害を金銭で補償してもらう方法です。3
行政不服審査法の目的と特徴

行政不服審査法の目的は、行政庁の違法または不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することです(1条1項)。
行政不服審査法は、行政不服申立てに関する一般法であり、他の法律に特別の定めがある場合には、そちらが優先して適用されます(1条2項)。
審査請求の対象
処分およびその不作為
行政不服審査法は、不服申立ての類型を原則として審査請求に一本化している。
審査請求には、①処分についての審査請求と、②不作為についての審査請求の2つがある。
- ①処分についての審査請求
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「処分」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為であり(1条2項かっこ書)、不法入国者の退去強制に当たり収容する行為(出入国管理及び難民認定法39条の2第1項)のような事実上の行為も含まれる。
行政庁の処分に不服がある者は、審査請求をすることができます(2条)。
- ②不作為についての審査請求
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「不作為」とは、法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないこと(3条かっこ書)。4
法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁の不作為がある場合には、当該不作為についての審査請求をすることができます(3条)。5
適用除外
行政不服審査法では、原則すべての処分や不作為が対象となります(一般概括主義)が、次のようなケースは除外されています(7条1項)。678
- 慎重な手続によって行われた処分であり、審査請求を認めても無駄なもの
-
- 国会の両院・一院・議会の議決によってされる処分
- 裁判所・裁判官の裁判によりまたは裁判の執行としてされる処分
- 国会の両院・一院・議会の同意・承認を得てなされる処分
- 検査官会議で決すべきものとされている処分
- 行政不服審査法よりも慎重な手続で処理されるべきもの
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- 形式的当事者訴訟によるべきとされる処分
- 刑事事件に関する法令に基づいて検察官・検察事務官・司法警察職員がする処分
- 国税・地方税の犯則事件に関する法令に基づいて国税庁長官等がする処分および
金融商品取引の犯則事件に関する法令に基づいて証券取引等監視委員会等がする処分
- 処分の性質上、審査請求を認めるべきでないもの
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- 学校・講習所・訓練所・研修所において行われる処分
- 刑務所等において、収容の目的を達成するためにされる処分
- 外国人の出入国・帰化に関する処分
- 専ら人の学識技能に関する試験・検定の結果についての処分
- 手続きの簡易迅速性の要請から、審査請求を認めるべきでないもの
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行政不服審査法に基づいて行われる処分9
行政不服審査法は行政不服申立ての一般法(1条2項)につき、他の法律により適用除外とされた場合は、行政不服審査法による審査請求ができません。10
まとめ:行政救済法の全体像をつかもう!
行政救済法は、行政法の中でも「国民の権利利益を守る」ための重要テーマです。行政書士試験でも頻出なので、ぜひこの機会に整理しておきましょう!
- 具体例:都道府県知事がいったんなした飲食店の営業許可を取り消す処分をした場合、この処分をなかったことにして営業を続けられるようにする方法が、①争訟による救済。また、この処分に従って営業は止めるものの、そのために生じた売上相当の損害を金銭で補填してもらうことが、②金銭による救済 ↩︎
- 参考:行政不服審査法に基づく不服申立ては、違法な処分のみならず不当な処分も対象となるのに対し、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟は、違法な処分のみが対象となり、不当な処分は対象とならない。 ↩︎
- 国家賠償については国家賠償法が規定しているが、損失補償については、個別の法律(例:土地収用法、道路法など)で、どのような場合にどのような損失補償をするかについてそれぞれ規定している。 ↩︎
- 具体例:生活保護の支給の申請をしたにもかかわらず1年たっても何の連絡もない場合など ↩︎
- 参考:不作為についての審査請求の審理中に申請拒否処分がなされた場合、当該審査請求は、拒否処分に対する審査請求とみなされる旨の規定は存在しない ↩︎
- 行政手続法の場合(3条3項)と異なり、地方公共団体の機関が条例・規則に基づいてする処分も適用除外とはされていない ↩︎
- 参考:国または地方公共団体その他の公共団体もしくはその機関に対する処分で、これらの機関・団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるものおよびその不作為については、行政不服審査法の規定は適用されない(7条2項) ↩︎
- 参考:7条に挙げられ行政不服審査法の適用除外とされた処分または不作為でも、他の法律で不服申立ての制度を設けることはできる(8条) ↩︎
- 具体例:利害関係人の参加の不許可処分(13条1項)、物件の提出要求(33条)、審査請求人からの物件の閲覧・交付請求を拒否する処分(36条1項後段)など ↩︎
- 具体例:行政庁・主宰者が聴聞手続についてなした処分(行政手続法27条)、労働委員会がなした処分(労働組合法27条の26)、公正取引委員会がなした処分(独占禁止法70条の12)等 ↩︎