民法18-2:同時履行の抗弁権

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同時履行の抗弁権とは?

双務契約において、当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債権の履行を含む)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができます(533条本文)。これを同時履行の抗弁権といいます。
この趣旨は、双務契約の当事者間の公平を図る点にあります。1

同時履行の抗弁権の要件

  • 1個の双務契約から生じた相対立する債務が存在すること
  • 相手方の債務が弁済期になること
  • 相手方が自己の債務の履行またはその提供をしないで履行を請求すること

1つの双務契約から生じた相対立する債務が存在すること

1つの双務契約から生じた債務同士が、同時履行の関係にあるかどうかについては、以下のように判断されます。

  • 同時履行の関係が認められる場合
    • 建物買取請求権が行使された場合の土地明渡義務と買取代金支払い義務(大判昭7.1.26)
    • 債務の弁済と受取証書2の交付義務(486条1項
    • 詐欺により買主が契約を取消した場合の当事者双方の原状回復義務(121条の2第1項、最判昭47.9.7)
    • 解除に基づく当事者双方の原状回復義務(546条
  • 同時履行の関係が認められない場合
    • 造作買取請求権が行使された場合の建物明渡義務と買取代金支払義務(最判昭29.7.22)
    • 賃貸借終了時における敷金返還義務と建物明渡義務(622条の2第1項1号
    • 債務の弁済とその債務の担保のために経由された抵当権設定登記の抹消義務(最判昭57.1.19)

相手方の債務が弁済期にあること

相手方の債務が弁済期にないときは、同時履行の抗弁権を行使することはできません(533条但書)。

相手方が自己の債務の履行または履行の提供をしないで履行を請求すること

双務契約の当事者の一方は、相手方が履行の提供をしても、その提供が継続されない限り、同時履行の抗弁権を失いません(最判昭35.5.14)。3

同時履行の抗弁権の効果

当事者の一方が相手方に対して訴訟で債務の履行を請求した場合、同時履行の抗弁権を主張すると、引換給付判決がなされます(大判明44.12.11)。

引換給付判決 とは、「相手方が債務を履行することを条件として、自分も履行しなければならない」とする判決です。

留置権との違い

なお、留置権と同時履行の抗弁権をまとめると、以下の通りとなります。

留置権同時履行の抗弁権
性質法定担保物件双務契約の効力として認められる抗弁権
相手方すべての者契約当事者たる相手方のみ
占有を失った場合行使できない行使できる
拒絶できる給付の内容物の引渡しに限られる物の引渡しに限られない
拒絶できる自己の債務の範囲債務の全額(296条)相手方の不履行の程度に応じて割合的
代担保による消滅請求の可否可能(301条)不可
訴訟上の効果引換給付判決がなされる(大判明44.12.11、最大判昭33.3.13)
  1. 具体例:自動車の売買契約が締結された場合、売主は、買主が代金を支払うまで、自動車の引渡しを拒むことができる。 ↩︎
  2. 受取証書:弁済を受領した旨を記載した文書のこと ↩︎
  3. 重要判例:双務契約において、当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思が明確な場合には、相手方において自己の債務の弁済を提供しなくても、その当事者の一方は自己の債務の不履行について履行遅滞の責任を免れることができない(最判昭41.3.22) ↩︎
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