民法解説(1):権利の主体・客体

目次

権利能力

権利能力とは?

権利能力とは、権利義務の帰属主体となることができる資格のこと。
権利能力を有するのは自然人と法人。

胎児の権利能力

①原則

私権の享有は、出生に始まると規定されている(3条1項)ので、人は生まれながらに権利能力を有することになるが、生まれる前の胎児は、権利能力を有していないことになる。

②例外

胎児は、不法行為に基づく損害賠償請求権721条)、相続886条1項)、遺贈965条)については、生まれたものとみなされる。

「生まれたものとみなす」とは、胎児に権利能力を与えるものではなく、生きて生まれた場合に、遡って権利能力を取得するという意味(停止条件説)。
したがって、法定代理人が出生前に胎児を代理することはできない(大判昭7.10.6)。

失踪宣告

①失踪宣告とは?

権利能力は、死亡によって失われるが、行方不明になったにすぎない場合は権利能力は失われない。しかし、これでは利害関係人(例:失踪した夫の妻など)に不都合が生じる場合がある。
そこで、ある人について生死不明状態が継続した場合、その人を死亡したものとして取り扱って、財産を相続させるなどして利害関係人の保護を図ることとしている。これを失踪宣告という。

②失踪宣告の種類

失踪宣告には、普通失踪(30条1項)と特別失踪(30条2項)の2種類がある。

  • 普通失踪
    • 要件1:不在者の生死が7年間明らかでないこと
    • 要件2:利害関係人の請求があること
    • 効果 :7年の期間が満了したときに、死亡したものとみなされる(31条)。

  • 特別失踪
    • 要件1:死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、危難が去ったあと1年間明らかでないこと
    • 要件2:利害関係人の請求があること
    • 効果 :危難が去った時に、死亡したものとみなされる(31条)。
③効果

失踪宣告がなされると、もとの住所を中心とする私生活上の法律関係は、死亡したものと同じ扱いがされる。ただし、本人が死亡したわけではないので、本人の権利能力は喪失するわけではない。

③失踪宣告の取消

失踪者が生存または死亡したものとみなされた時と異なる時に死亡したことの証明があったとき、失踪宣告を取り消さなければならない(32条1項前段)。取り消されると、失踪宣告は最初からなかったものとして扱われる。

しかし、それでは失踪宣告を前提に行動した者の利益を害するので、失踪宣告の取消は、失踪宣告後その取消前善意でした行為の効力には影響を及ぼさない(32条1項後段)。

・大判昭13.2.7…「善意」とは、行為の当事者がともに善意であることを意味する。

なお、失踪宣告によって善意で財産を得た者は、その取消によって権利を失うが、財産の返還義務は現に利益を得ている限度においてのみ制限される(32条2項

・最判昭50.6.27…生活費に使った場合のように現時点で残っている場合は、返還義務を負う。
・最判昭50.6.27…ギャンブルで浪費した場合のように利益が残っていない場合は、返還義務を免れる。

意思能力

意思能力とは、自分の行為の結果を判断することができる精神的能力のこと。
意思能力を有しない人のことを意思無能力者という。

意思無能力者の行った行為は無効とされる(3条の2)。
意思能力者の行為を無効とすることで、意識無能力者が思わぬ損をしないように保護している。

行為能力

行為能力とは、法律行為を自ら単独で有効に行う能力。

物を売買する場合、それが自分にとってどういう効果を及ぼすかある程度判断できないと、損をしてしまうことがある。そこで、売買といった法律行為が自分にとっての効果を判断する能力を有しない者を保護するため、なしうる行為に制限を加えることが必要となる。
このような制限を加えられる者を制限行為能力者という。

制限行為能力者には、以下の4類型がある。

  1. 未成年者
  2. 成年被後見人
  3. 被保佐人
  4. 被補助人

未成年

①未成年者とは?

未成年者とは、年齢18歳未満の者(4条)。

平成30年の民法改正により、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた。

②保護者

未成年者の判断能力の不十分さを補うため、未成年者には保護者が付けられる。
未成年者の保護者は法の定めるところにより未成年者を代理して法律行為を行う権限を有しているため、法定代理人と呼ばれる。

通常は、親権者である父母が法定代理人となる(818条819条)が、親権者がいない場合や、子の財産の管理権がない場合は、未成年後見人が法定代理人となる(838条1号)


制限行為能力者の保護者は以下の権限を有している。

  • 同意権:制限行為能力者が単独で行為をなしうるよう同意する権限
  • 代理権:制限行為能力者に代わって行為を行う権限
  • 取消権:制限行為能力者が単独で行った行為を取り消す権限
  • 追認権:制限行為能力者が単独で行った行為を有効なものと確定する権限
③行為能力

未成年者が法律行為をするには、原則として法定代理人の同意が必要(5条1項本文)。そして、法定代理人の同意を得ないでした行為は取り消すことができる(5条2項)。
ただし、以下の3つの行為は、法定代理人の同意を得ずに行う事ができる。

  • 単に権利を得または義務を免れる行為(5条1項但書)。…負担がないため
  • 法定代理人が処分を許した財産(小遣いなど)の処分(5条3項)。
  • 許された営業に関する行為(6条1項)。

成年被後見人

①成年被後見人とは?

成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力欠く常況にあるとして、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた者(7条

②保護者

成年被後見人には、保護者として成年後見人が付される(8条843条1項

③行為能力

成年被後見人の法律行為は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、取り消すことができる(9条)。
これは、成年後見人の同意を得た場合でも同様。
同意権なし(同意通りに行為をするとは限らないため)

被保佐人

①被保佐人とは?

被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であるとして、家庭裁判所による補佐開始の審判を受けた者(11条)。

②保護者

被保佐人には、保護者として保佐人が付される(12条)。
保佐人は、代理権を当然に有するわけではなく、家庭裁判所は、本人や保佐人等の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する審判をすることができる(876条の4第1項)。
ただし、本人以外の者の請求によって審判をするには、本人の同意が必要(876条の4第2項)。

③行為能力

被保佐人が以下の行為をするには、保佐人の同意を得なければならない(13条1項本文)。

  • 元本の領収・利用
  • 借財・保証
  • 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為
  • 訴訟行為
  • 贈与・和解・仲裁合意
  • 相続の承認・放棄、遺産の分割
  • 贈与の申込みの拒絶、遺贈の放棄、負担付贈与の承諾、負担付遺贈の承認
  • 新築・改築・増築・大修繕
  • 602条に定める期間を超える賃貸借
  • の行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること

保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意を得ないでした行為は取り消すことができる(13条4項)。

被補助人

①被補助人とは?

被補助人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分であるとして、家庭裁判所による補助開始の審判を受けた者(15条1項本文

②保護者

被補助人には、保護者として補助人が付される(16条)。
補助人は、同意権や代理権を当然に有するわけではなく、補助開始の審判をする際に、同意権付与の審判17条1項)・代理権付与の審判876条の9第1項)のいずれか、または双方がなされる(15条3項)。

同意権付与の審判がなされた場合、補助人は、被補助人に同意を与える権限を有するが、同意を得なければならない行為は、13条1項に規定する一部の行為に限られる(17条1項但書)。

③行為能力

補助人に代理権のみ付与された場合は、被補助人の行為能力は制限されない。
被補助人に同意権が付与された場合、補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意を得ないでしたものは、取り消すことができる(17条4項)。

制限行為能力者のまとめ

スクロールできます
未成年者成年被後見人被保佐人被補助人
要件年齢18歳未満のもの事理を弁識する能力を
欠く常況
事理を弁識する能力が
著しく不十分
事理を弁識する能力が
不十分
家庭裁判所の審判が必要


名称法定代理人成年後見人保佐人補助人
同意権×
代理権
取消権
追認権

:あり :審判を受けた場合あり ×:無し

審判相互の関係

後見・保佐・補助の制度が重複することを避ける必要があり、後見開始の審判をする場合において、本人が被保佐人被補助人であるとき、家庭裁判所は、その本人に係る保佐開始補助開始審判を取り消さなければならない19条1項)。
また、保佐開始の審判をする場合において、本人が成年被後見人被補助人であるとき、家庭裁判所は、その本人に係る後見開始補助開始の審判を取り消さなければならない19条2項)。

制限行為能力者の相手方の保護

行為能力制度は、制限行為能力者を保護することを目的としており、いったん成立した法律行為を制限行為能力者側から一方的に取り消すことができる。

そのため、取引の相手方からすれば、有効と思っていた法律行為が自己の意思とは関係なく取り消されることになり、取引の安全を害することになる。そこで、制限行為能力者の相手方を保護する制度が設けられている。

①相手方の催告権

制限高能力者がなした行為が取り消されるかどうかわからず、不安定な状況に置かれるのを防止するため、相手方の催告権が認められている。
相手方は、1カ月以上の期間を定めて催告をすることができる(20条1項)。

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制限行為能力者行為能力者となった後制限行為能力者行為能力者とならない間
催告の相手方本人本人保護者
未成年者
成年被後見人
被保佐人
被補助人
法定代理人
保佐人
補助人
効果催告を受けたものが期間内に追認するかどうかの確答をしなかった場合、追認したものとみさす
20条1項
催告をもって対抗できない
98条の2本文
催告を受けたものが期間内に追認を得た旨の通知を発しなかった場合、取り消したものとみなされる
20条4項
催告を受けたものが期間内に追認するかどうかの確答を発しなかった場合、追認したものとみなされる
20条1項・2項
②制限行為能力者の詐術

制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことはできない(21条)。
制限行為能力者が、積極的に行為能力者であると偽った場合、相手方を保護すべきとの判断。

最判昭44.2.13…黙秘することが制限行為能力者の他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときには「詐術」にあたるが、単に黙秘することのみでは「詐術」にあたらない。

法人

法人とは?

法人とは、法律により権利をもつことが認められている団体。

法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う(34条)。

法人は一定の目的のために組織化され活動するものなので、権利能力の範囲目的の範囲内に制限される。

権利能力なき社団

①権利能力無き社団とは?

権利能力無き社団とは、法人のような実態を有しているものの、法律により権利をもつことが認められているわけではない団体。(例:PTAや大学のサークルなど)

権利能力無き社団は、以下の要件を満たした場合に成立する(最判昭39.10.15)

  • 団体としての組織を備えていること
  • 多数決の原則が行われれていること
  • 構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続すること
  • その組織によって代表の方法総会の運営財産の管理など団体としての主要な点が確定していること
②権利と義務の帰属

権利能力なき社団の財産は、構成員に総有的1に帰属するものと解されており、構成員は権利能力無き社団の財産に対する持分権や分割請求権を有さない(最判昭32.11.14)。

また、権利能力無き社団の債務も、構成員に総有的に帰属するものと解されており、構成員は債権者に対して個人的責任を負わない。(最判昭48.10.9)

組合契約

①組合契約とは?

組合契約とは、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約束する契約(667条1項)。

②権利と義務の帰属

組合の財産は、総組合員の共有に属するとされており(668条)、組合員は、組合の財産に対する持分権を有するが、生産前の分割権を有していない(676条3項)。

判例:最判昭33.7.22

組合財産に属する特定の不動産について、第三者が不法な保存登記をした場合、組合員は、単独で当該第三者に対して抹消登記請求をすることができる。

組合の債務については、組合員が損失分担の割合または等しい割合にお応じて個人的責任を負い、債権者が債権発生時に損失分担の割合を知っていたときは、各組合員は、その割合で個人的責任を負う(675条2項)。

③組合の業務執行
  1. 業務執行者を定めた場合
    • 常務の執行
      各業務執行者が単独で行うことができる(670条5項本文

    • 常務以外の業務の執行
      業務執行者の過半数で決する(670条3項

  2. 業務執行者を定めていない場合
    • 常務の執行
      各組合員が単独で行うことができる(670条5項本文

    • 常務以外の業務の執行
      組合員の過半数で決する(670条1項
④組合の脱退
  1. 任意の脱退
    • 組合の存続期間を定めなかった場合:
      組合に不利な時期を除いていつでも脱退する事ができ、やむを得ない事由があれば組合に不利な時期でも脱退できる(678条1項)。
      ※判例:やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は無効(最判平11.2.23)

    • 組合の存続期間を定めた場合:
      やむを得ない事由がある場合に限り脱退することができる(678条2項)。

  2. 法定の脱退事由(679条
    1. 死亡
    2. 破産手続開始の決定を受けたこと
    3. 後見開始の審判を受けたこと
    4. 除名

物(ぶつ)

物とは?

民法上の権利の客体となるのは物。物とは有体物をいう(85条)。

不動産と動産

不動産とは、土地およびその定着物(86条1項)。不動産以外の物を動産という(86条2項)。

主物と従物

物の所有者が、その物を常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させた場合、その附属させた物を従物という(87条1項)。

主物と従物は別個独立の物だが、従物は主物の効用を助けるものであり法律関係を共にすることが合理的なので、従物は、主物の処分に従うものとされている(87条2項)。

果実

果実とは、元物から生じる収益のことで、果実には天然果実法定果実の2種類がある。

天然果実法定果実
意味物の用法に従って収取する産出物
88条1項
物の使用の対価として受ける金銭等
88条2項
取得者元物から分離する時に収取権を有する者
89条1項
その収取権の存続期間に従って、日割りをもって取得する
89条2項

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  1. 総有:数人が共同して目的物を所有するが、その数人が強い団体的拘束を受ける場合のこと。 ↩︎
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