代理
代理とは?


東京在住のAは、北海道の土地を買いたいと思っていたが、北海道まで土地を見に行く時間がなかった。そこで、北海道在住のBに頼んで、自分の代わりにCから土地を買ってもらうことにした。
契約は、本来、本人が自ら相手方と直接結ぶものです。しかし、上の事例のように、本人が自ら契約を結ぶことが難しい場合もあります。そこで、他者に契約を締結してもらい、その効果を本人に帰属させる制度が「代理」です。
代理の種類
代理には、「任意代理」と「法定代理」の2種類があります。
- 任意代理:本人が自ら代理権を与え、他者を代理人として活用することで、自身の活動範囲を広げることを目的とした制度。
- 法定代理:本人の意思によらず、未成年者など、法律上の行為能力が不十分な人が適切に活動できるよう、法律によって代理人に代理権が与えられる制度。
代理の成立要件
代理が成立するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 代理人に代理権があること。
(代理人が正当に代理行為を行う権限をもっていること。) - 顕名があること。
(代理人が本人の代理であることを相手方に明示すること。) - 有効な代理行為がなされたこと。
(代理人による契約行為が法律的に有効であること。)
代理権
- ①範囲
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- 任意代理:代理権の範囲は、本人と代理人の間で結ばれる契約によって決まる。
- 法定代理:代理権の範囲は、法律によって定められている。
また、代理人の権限が特に定められていない場合でも、以下の行為を行う権限が認められる(103条)。
- 保存行為(権利や財産を維持・保全するための行為)
- 利用・改良行為(代理の対象である物や権利の性質を変えない範囲での利用や改良を目的とする行為)
- ②自己契約・双方代理
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事例1
Aは、土地を買いたいと思っていたで、Bに土地の購入をお願いした。Bは、自分が所有する土地を売りたいと思っていたので、Aに対して土地を売却した。
事例2Aは、土地を買いたいと思っていたので、Bに土地の購入を依頼した。他方、Cは、土地を売りたいと思っていたので、Bに土地の売却を依頼した。そこで、Bは双方の代理人としてAC間で土地を売買した。
- 自己契約:事例1のように、代理人が自ら当事者となり、相手方(本人)の代理人として契約を結ぶこと(例:BがAの代理人としてB自身と契約を結ぶ)。
- 双方代理:事例2のように、同じ契約において、当事者双方の代理人となること(例:BがAとCの双方の代理人として契約を締結する)。
これらの行為は、本人の利益を損なう可能性があるため、たとえ代理権の範囲内であっても禁止される。違反した場合は、その契約は無権代理の行為となる(108条1項本文)。
- 自己契約:事例1のように、代理人が自ら当事者となり、相手方(本人)の代理人として契約を結ぶこと(例:BがAの代理人としてB自身と契約を結ぶ)。
- ③代理権の濫用
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事例
Aは、土地を買いたいと思っていたので、Bに土地の購入を委託した。Bはこの権限を利用し利益を得ようと考え、Aの代理人としてCから土地を購入した後、これを他に転売し利益を着服した。
代理権の濫用とは、代理権の範囲内で代理人が行った行為であっても、自己または第三者の利益を図る木出来で行われ、結果として本人が損害を受ける場合を指します。
この場合、代理行為は原則として有効とされますが、相手方が代理人の目的を知り、または知ることができた場合は、無権代理行為とみなされる(107条)。
- ④代理権の消滅
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代理権の消滅は以下の通りです。
顕名(けんめい)
顕名とは、代理人が本人のために代理行為を行うことを明示することを指します。
顕名がある場合、代理行為の効果は本人に直接帰属します(99条1項)。
一方で、代理人が顕名をしなかった場合、原則として契約の効果は本人に帰属せず、代理人自身に帰属するとみなされる(100条本文)。ただし、相手方が代理人の代理意思を知っていた、または知らなかったことについて過失があった場合には、例外的に本人に効果が帰属します(100条但書)。
代理行為
代理が成立するためには、有効な代理行為が行われる必要があります。代理行為が無効となった場合、その効果は本人に帰属しません。
- ①代理行為の瑕疵(かし)
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意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫など)・不存在または表意者の悪意有過失によって意思表示の効力が影響を受ける場合、その有無は代理人を基準に判断されます(101条1項・2項)。これは、代理行為を実際に行うのは、代理人であるという考えに基づきます。
ただし、特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をした場合、本人が事前に知っていた事情や、過失によって知らなかった事情については、代理人が知らなかったことを理由に主張することはできません(101条3項)。
これは、本人が代理人の意思決定に影響を及ぼしていた場合に、本人が代理人の善意(知らなかったこと)を主張するのは公平でないためです。
- ②代理人の能力
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代理人が制限行為能力者(未成年や成年被後見人など)であっても、代理行為の効果本人に帰属し、代理人である制限行為能力者に不利益は生じません。そのため、代理行為を行為能力の制限によって取り消すことはできません(102条本文)。
ただし、制限行為能力者が別の制限行為能力者の法定代理人として行った行為については、他の制限行為能力者の保護の必要性があるため、取り消しが認められています(102条但書)。
復代理
復代理とは?

Aは、土地を買いたいと思っていたので、Bに頼んで自分の代わりにDから土地を買ってもらうことにした。その後、Bは、怪我のため入院を余儀なくされたため、Cに頼んで、自分の代わりにAの代理人としてDから土地を買ってもらうことにした。
代理人は、本人との信頼関係に基づいて選任されるため、原則として委ねられた事務を自ら処理する必要があります。しかし、状況によっては代理行為を他者に委ねた方が適切な場合もあるため、民法では代理人がさらに代理人(復代理人)を選任できる復代理制度を認めています。
選任と責任
復代理人の選任要件や、復代理人を選任した際の代理人の責任は、下表のように「任意代理」と「法定代理」で異なります。具体的な違いは以下の通りです。
種類 | 専任の要件 | 代理人の責任 |
任意代理 | 本人の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない(104条) | 選任・監督以外についても責任を負う |
法定代理 | 事由に復代理人を選任することができる(105条前段) | 原則:選任・監督以外についても責任を負う 例外:やむを得ない事由により選任した場合、選任・監督についてのみ責任を負う(105条後段) |
復代理人と本人との関係
復代理人は、その権限の範囲内において、本人を直接代表します(106条1項)。つまり、復代理人は、代理人の代理人ではなく、本人の代理人となります。
また、復代理人は本人及び第三者に対して、代理人と同じ権利・義務を有します(106条2項)。これは、復代理人の代理権の範囲が代理人の代理権を超えることができないことを意味します。
無権代理
無権代理とは?

Aは土地を買いたいと思ってたが、Bは、Aに無断で、Aの代理人としてCから土地をかってしまった。
上の事例のように、代理権を持たない者(B)が本人(A)の代理人として契約を行うことを無権代理といい、その行為を行った者を無権代理人といいます。無権代理による契約は、原則として本人に効果が帰属しません(113条1項)。
しかし、無権代理行為が本人にとって有益である場合もるため、本人が事後的にその契約を認める(追認)ことができます。追認されると、契約の効果は契約時点まで遡って本人に帰属します(116条本文)。
一方、本人が追認拒絶した場合、無権代理行為の効果は無効となります。
相手方がとりうる手段
- ①催告権
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相手方は、本人に対して相当の期間を定め、その期間内に追認をするかどうかを確定するよう求める(催告)ことができます(114条前段)。もし本人がその期間内に確答しなかった場合はは、追認を拒絶したものとみなされます(114条後段)。
この制度の目的は、無権代理の相手方が、本人の追認や拒絶によって契約の有効性が確定するまで不安定な立場に置かれることを防ぐためです。
- ②取消権
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無権代理人が締結した契約は、本人が追認をしない限り、相手方が取り消すことができます(115条本文)。
ただし、契約時に相手方が代理権の不存在を知っていた場合には、取消権は認められません(115条但書)。これは、相手方が無権代理であることを承知の上で契約した場合にまで取消権を認めると、本人が追認する機会を奪うことになり、不公平だからです。
- ③無権代理人の責任
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無権代理人は、自身に代理権があることを証明するか、本人の追認を得ない限り、相手方の選択に従って、契約の履行または損害賠償の責任を負います(117条1項)。
重要判例:最判昭32.12.5
相手方は、損害賠償を選択した場合、契約が履行されたならば得たであろう利益(履行利益)を損害賠償として請求することができる。
ただし、以下のいずれかに該当する場合、相手方は無権代理人に責任を追及できません(117条2項1号~3号)。
- 代理権を有しなかったことにつき相手方が悪意または善意有過失であったとき
- 無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき
重要判例:最判昭62.7.7
117条2項の「過失」は、軽過失も含むものであり、重大な過失に限定されるものではない。
無権代理と相続
民法896条により、相続人は、相続開始時点で、被相続人の財産に属した一切の権利義務をすべて承継します。そのため、無権代理人と本人の間で相続が発生した場合、被相続人(本人)と相続人(無権代理人)の立場が統合され、追認と同じような効果が生じるのではないかという問題が発生します。
この点について、判例は以下のように判断しています。
- 無権代理人が本人を相続
- 単独相続
無権代理人が本人の地位を相続した場合、無権代理行為は有効になる(最判昭40.6.18)
※本人が追認を拒絶した後に死亡したときは、無権代理行為は有効にならない(最判平10.7.17) - 共同相続
無権代理人が本人の地位を共同相続した場合、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない(最判平5.1.21)
- 単独相続
- 本人が無権代理人を相続
- 本人は、無権代理行為の追認を拒絶することができる(最判昭37.4.20)
- 本人は、117条に基づく無権代理人の責任を承継する(最判昭48.7.3)
- 無権代理人と本人の双方を相続
無権代理人の地位を相続した後に本人の地位をも相続した第三者は、無権代理行為の追認を拒絶することができない(最判昭63.3.1)
表見代理

Aは、土地を買いたいと思っていたのでBに頼んで、自分の代わりにCから土地を買ってもらうために契約に必要な実印をBに渡した。しかし、Bはこの実印を使いAの代理人としてCから土地ではなく建物を買った。
事例のように、無権代理であっても本人に責められるべき事情(例:実印の交付)があり、相手方が代理行為を有効と信じることが無理のない場合には、その代理行為の効果を本人に帰属させる制度があります。これを表見代理といいます。
重要判例:最判昭62.7.7
無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対して117条の責任を問う事が出来る。この場合、無権代理人が表見代理の成立要件を主張立証しても自己の責任を免れることはできない。
表見代理には、以下の3種類あります。
- 代理権授与の表示による表見代理(109条)
- 本人が代理権を与えたような表示をした場合に適用されます。
- 代理権授与の表示があり、表示された代理権の範囲内で代理行為がなされ、相手方が代理権の不存在につき過失なく知らなかった場合
- 権限外の行為の表見代理(110条)
- 代理人が与えられた権限を超えた行為をした場合に適用されます。
- 代理人が権限外の行為をし、相手方が代理人に権限があると信ずべき正当な理由がある場合 ※重要判例1
- 代理権消滅後の表見代理(112条)
- 代理権がすでに消滅しているにもかかわらず、消滅前と同じ範囲で代理行為が行われた場合に適用されます。
- 代理権が消滅した後に、消滅した代理権の範囲内で代理行為がなされ、相手方が代理権の消滅につき過失なく知らなかった場合 ※重要判例2
また、❶と➋の場合(109条2項)や➋と❸(112条2項)が組み合わさる場合もあります。(表見代理の重畳適用)。
重要判例1:大判昭5.5.6
請負人は、下請負人に対して請負人の名義を使って工事をすることを許容した場合を除き、下請負人に対して代理権授与表示(109条1項)をしたものとはされない
重要判例2:最判昭35.2.19
投資会社の勧誘員が、事実上他の者を一切の勧誘行為にあたらせてきたというだけでは、他の物を勧誘員の代理人として110条を適用することはできない
代理と使者
代理と似た制度として、「使者」があります。使者とは、本人が決定した意思をそのまま相手方に伝えたり、表示または伝達する役割を持つ者のことです。
代理人と使者の比較
代理人 | 使者 | |
---|---|---|
自由 | 意思決定の認められている | 認められていない |
地位 | 法律に基づくもの(法定代理)や代理権授与に基づくもの(任意代理)があるが、必ずしも委任契約による必要はない | 雇用契約、請負契約など多様な契約に基づく |
能力 | 意思能力は必要 行為能力は不要(102条) | 意思能力も行為能力も不要 |
瑕疵の基準 | 意思表示の代理人を基準に判断 (101条1項・2項) | 本人を基準に判断 |
権限外の行為 の効果 | 権限外の行為の表見代理(110条) | 本人の意思と使者の表示が一致しない場合、錯誤(95条) |
復人の可否 | 代理人は本人に無断で復代理人を選任できる場合がある (104条・105条前段) | 使者は本人に無断で他の使者を選任できる |