即時取得
即時取得とは?

Aは、Bに自己の所有する時計を預けていたが、Bはこの時計を自己の物であると偽って、この事実を過失なく知らないCに対して売却し、引渡しをおこなった。
この事例の場合、Bは時計の所有者ではないため、Cは時計の所有権を取得できないことになりそうですが、これではCは安心して取引を行うことができません。
そこで、民法では次のように規定されています。
①取引行為によって、
②平穏に、かつ、公然と、
③動産の占有を始めた者は、
④取引行為の相手方が無権利者であることを過失なく知らなかったときは、
その動産の権利を取得できるとされています(192条)。これを即時取得と言います。1

即時取得の要件
- ①取引行為
-
即時取得が成立するためには、取引行為が存在することが必要です2。「取引行為」に当たるかどうかについては以下の通りです。
- ②平穏・公然
- ③動産の占有を始めたこと
-
即時取得が成立するためには、目的物が動産であることが必要です。3
また、「占有を始めた」とは、現実の引渡し・簡易の引渡し・指図による占有移転のいずれかの方法により占有を取得したことを指し、占有改定では足りないとされています(最判昭35.2.11)。
- ④善意無過失
即時取得の効果
即時取得の効果として、動産について行使する権利を取得することが挙げられます。4
ここでいう「動産について行使する権利」とは、取引の性質から認められる権利のことを指します。例えば、売買の場合は所有権、質入れの場合は質権を取得することになります。5
盗品や遺失物の特則
即時取得が成立した場合であっても、占有している物が盗品または遺失物であるときは、被害者または遺失者は、盗難または遺失の時から2年間、占有者に対してその物の返還を請求することができます(193条)。
ただし、占有者が盗品または遺失物を競売や公の市場で購入した場合、またはその物と同種の物を販売する商人から善意で買い受けた場合には、被害者または遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することはできません(194条)。6
物権変動インデックス
- 不動産の物権変動
- 動産の物権変動
- 即時取得の規定は、不動産賃貸の先取特権について準用される(319条) ↩︎
- 前主が所有者であるものの行為能力の制限・無権代理などにより後主が権利を取得できない場合は、有効な「取引行為」があったとはいえないので、即時取得は成立しない。 ↩︎
- 重要判例:道路運送車両法による登録を受けていない自動車については、192条の適用があるのに対し(最判昭45.12.4)、登録を受けている自動車については、192条の適用はない(最判昭62.4.24)。 ↩︎
- 即時取得による権利の取得は、前主からの承継取得ではなく、前主の権利に基づかない原始取得であるとされている。 ↩︎
- 賃借権の即時取得は認められない ↩︎
- 重要判例:占有者は、盗品等が被害者等に返還された後でも代価の弁償を請求することができ、また、台かの弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有する(最判平12.6.27) ↩︎