不当利得とは?
--- config: theme: neutral --- sequenceDiagram autonumber actor A_売主 actor B_買主 A_売主 ->> B_買主:売却 B_買主 ->> B_買主:詐欺 A_売主 -->> B_買主:売買契約の取消し A_売主 ->> B_買主:不当利得返還請求
Aは自分の所有する車をBに売却し、引き渡した。しかし、この売買契約はBの詐欺によるものであったので、Aは売買契約を取り消した。
不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産または労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼすことをいいます。そして、不当利得を受けている者は、これを返還する義務を負います(703条、704条)。
事例では、AとBの間の車の売買契約が取り消された以上、Bが車を所持していることについて法律上の原因はないので、Bが車を所持していることは不当利得にあたります。したがって、AはBに対して、車の返還を請求すことができます。このように、不当利得も、契約と同様に債権発生の原因となります。
この不当利得制度の趣旨は、形式的には正当とされる財産的価値の移動が実質的には正当とはいえない場合に、公平の理念に従ってこれを調整する点にあります。
要件
不当利得の税率要件は、以下の4つ。
効果
善意の受益者は、利益の存する限度において、これを返還する義務を負います(703条)。
一方で、悪意の受益者は、受けた利益に利息を付して返還しなければならず、さらに損害がある場合は、その賠償の責任を負います(704条)。
不当利得の特則
法政策上の判断により、本来ならば成立するはずの不当利得返還請求権が成立しない場合があります。これを不当利得の特則という。
非債弁済
債務の弁済として給付をした者が、その時で債務が存在しないことを知っていた場合、その給付したものの返還を請求することができません(705条)。これを非債弁済といいます。34
期限前の弁済
債務者が、弁済期にない債務の弁済として給付をした場合、その給付したものの返還を請求することはできません(706条本文)。これは、弁済を受け取った者が、期限の利益の放棄したと認識し、すでに処分してしまう可能性があるためです。
ただし、債務者が錯誤により給付を行った場合は、債権者はそれによって得た利益を返還しなければなりません(706条但書)。例えば債権者が得た利息などが該当します。
他人の債務の弁済
債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合、原則として、弁済者は給付した物の返還を請求することができます。
ただし、債権者が善意で証書を紛失したり、損傷させたり、担保を放棄したり、時効によってその債権を失った場合は、弁済者は返還の請求をすることができません(707条1項)。5
不法原因給付
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができません(708条本文)。これを不法原因給付といいます。67
この規定の趣旨は、自ら反社会的な行為を行った者に対し、その行為の回復を求めることを許さない点にあります。
ここでいう「給付」とは、受益者に終局的な利益を与えるものでなければなりません。これは、不法原因給付を抑止する目的があるためです。
■「給付」の意味
- 不動産の給付
- 未登記建物:引渡しが「給付」にあたる(最大判昭45.10.21)
- 既登記建物:所有権移転登記が「給付」にあたる(最判昭46.10.28)
- 抵当権設定登記
「給付」にあたらない(最判昭40.12.17)
なお、不法な原因が受益者にのみ存在する場合は、給付したものの返還を請求することができます(708条但書)。8
- 重要判例:建物賃借人から請け負って修繕工事をした者が、賃借人の無資力を理由に建物所有者に対して修繕代金相当額を不当利得として返還請求できるのは、建物所有者が対価関係なしに利益を受けた場合に限られる(最判平7.9.19) ↩︎
- 重要判例:金銭消費貸借契約の借主は、特段の事情のない限り、貸主が第三者に対して貸付金を給付したことにより、その価値に相当する利益を受けたものとみるべきであるが、借主と第三者の間に事前に何ら法律上・事実上の関係のない場合は、特段の事情があるといえるから、借主は利益を受けたものとはされない(最判平10.5.26) ↩︎
- 重要判例:知らないことにつき過失があったとしても、不当利得返還請求をすることができる(大判昭16.4.19) ↩︎
- 重要判例:債務が存在しないことを知っていたにもかかわらず強制執行を避けるため、やむを得ずに弁済をした者は、給付したものの返還を請求することができる(大判大6.12.11) ↩︎
- 参考:弁済をした者から債務者に対する求償権の行使をすることは妨げられない(707条2項) ↩︎
- 具体例:愛人関係にある女性に対して宝石を贈与して引き渡した場合、その返還を請求することはできない。 ↩︎
- 重要判例:不法原因給付の返還の特約は、有効である(最判昭28.1.22) ↩︎
- 重要判例:消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があったとしても、借主の側にも不法の点があり、全社の不法性が後者のそれに比してきわめて微弱なものにすぎない場合には、貸主は貸金の返還を請求することができる(最判昭29.8.31) ↩︎