法律行為
法律行為とは?
法律行為とは、意思表示を構成要素とし、その意思によって欲せられたとおりの権利義務関係の設定・変動が生ずる行為。法律行為は、成立の態様により3種類に分類される。
- 単独行為
効力を発生させようとする物の単独の意思で第三者にも効力を及ぼすような法律行為
例:取消(95条1項)・相殺(505条)・契約の解除(540条1項)・遺言 - 契約
2人の人間の意思の合致による法律行為
例:売買(555条)・賃貸借(601条) - 合同行為
多数の者が一定の目的のためになす意思の合致による法律行為
例:会社などの団体を設立する行為
準法律行為
準法律行為とは、一定の法的な効果は生ずるものの、法律行為とは区別される行為で以下の2種類。
- 意思の通知
意思を伝えるものではあるが、その意思によって欲せられた通りの効果を発生させるわけではないもの
例1:時効の完成猶予のための催告(150条)
例2:債務の履行の催告(541条) - 観念の通知
一定の事実の通知にすぎないが、法律によって認められた一定の効果を発生させるもの。
例1:時効の更新事由となる債務の承認(152条1項)
例2:債権譲渡の通知(467条)
有効要件
- ①公序良俗違反
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公の秩序または善良な風俗(公序良俗)に反する法律行為は、無効とされる(90条)。
- ②強行規定違反
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法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定(任意規定)と異なる意思表示をしたときは、その意思に従う(91条)。
意思表示
意思表示とは?
意思表示とは、表意者が一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に対して表示する行為。
意思表示は、通常は
※法律効果を発生させようとする意思
といった過程を経てなされる。
ただし、動機自体は意思表示に含まれない。
もし意思表示に欠陥がある場合、意思表示の効力を認めてよいかが問題となる。
意思表示に欠陥がある場合
- ①心裡留保(しんりりゅうほ)…原則:有効(例外あり)
-
心裡留保とは、意思表示の表意者が、表示行為に対する真意のないっことを知りながらおこなう意思表示。
心裡留保は原則として有効とされている(93条1項本文)。
なぜなら、でまかせを言った人より、それを信頼した人を保護すべきであるから。ただし、意思表示が表意者の真意でないことを知っていた。または、知ることができた相手方は保護する必要ないことから、例外的に無効とされる(93条1項但書)。
事例AはBに対して、あげる気もないのに自分の車を譲るといった。Bは、Aが本当はあげる気がないことを知りながら、車をもらい、その後、Cに売却した。
この場合、BはAが本当はあげる気がないことを知っているので、贈与は無効となる。
しかし、心裡留保の無効は、善意の第三者であるCに対抗することができない(93条2項)。
なぜなら、心裡留保を行ったものは権利を失ったとしても自業自得といえるとともに、第三者の信頼を保護しなければ取引の安全が害されるため。
- ②虚偽表示
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虚偽表示とは、表意者が相手方と通じて真意でない意思表示を行うこと。
虚偽表示は無効とされている(94条1項)。なぜなら、表意者と相手方が、意思表示を虚偽であることを認識しているため、双方とも保護する必要がないため。重要判例:最判昭56.4.28
財団法人(一般財団法人)の設立に際して、設立関係者全員の通謀に基づいて、出捐者が出捐の意思がないにもかかわらず一定の財産の出捐を仮装して虚偽の意思表示を行った場合、法人設立のための当該行為は相手方のない単独行為であるが、民法94条の類推適用により財団法人の設立の意思表示は無効となる。
事例Aは自己所有の土地に強制執行がなされることを察知したが、この土地を他人に渡したくないので、Bに頼んでBがこの土地を買ったことにし、登記を移転した。その後、Bは、善意のCに対してこの土地を売却した。
虚偽表示の無効は善意の第三者(C)に対抗することができない(94条)。
なぜなら、虚偽表示を行ったものは権利を失ったとしても自業自得といえることと、第三者の信頼を保護しなければ取引の安全が害されるため。重要判例:大判昭12.8.10
94条にいう「善意」とは、過失の有無を問わない。
なお、94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者またはその一般承継人以外の者であって、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至った者とされている(最判昭45.7.24)
- 「第三者」に該当する
- 虚偽表示により目的物を譲り受けた者から、その目的物について抵当権の設定を受けた者
- 虚偽表示により債権と作出した者から当該仮想債権を譲り受けた者(大判昭13.12.17)
- 虚偽表示により目的物を譲り受けた者からさらに目的物を譲り受けた転得者(最判昭45.7.24)
- 虚偽表示により譲り受けた目的物を差し押さえた仮想譲受人の一般債権者(最判昭48.6.28)
- 「第三者」に該当しない
- 虚偽表示により債権を譲り受けた者から、取立てのために当該債権を譲り受けた者(大決大9.10.18)
- 土地の賃借人が所有する地上建物を仮に仮装譲渡した場合の土地賃借人(最判昭38.11.28)
- 土地の仮装譲渡人から当該土地上の建物を賃借した者(最判昭57.6.8)
事例Aが土地を所有していたところ、BはAの実印と権利書を盗み、この土地の登記名義をBに移した。その後、Bはこの土地をCに売却し、登記を移転した。Aはこれを知りつつ放置していた。
この事例では、A・B間に通謀がないので、94条2項を直接適用することはできない。
もっとも、Cは土地の所有者がBであると信じて取引をしており、Cが土地を取得できないとすると、取引の安全が害される。
そこで、登記の真の所有者以外のところにあるにもかかわらず、真の所有者がこの登記を放置していた場合、登記名義人を真の所有者であると信じた第三者を保護するため、94条2項が類推適用される(最判昭45.9.22)。 - 「第三者」に該当する
- ③錯誤
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錯誤とは、法律行為の時点における表意者の効果意思が表示行為と食い違っているにもかかわらず、表意者自身がそのことに気づいていない状態。錯誤には2種類ある。
- 表示の錯誤
- 意義:意思表示に対応する意思を欠く錯誤
- 例:文庫本の下巻を買うつもりだったが、上巻をレジに差し出して買ってしまった場合
- 動機の錯誤
- 意義:表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
- 例:近くに駅ができると聞いて、土地が値上がりすると考え、時価より高く買ったところ、駅の設置計画が取りやめになった場合。
表示意思は、①錯誤(表示の錯誤、動機の錯誤)に基づくものであって、②その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる(95条1項)。
ただし、動機の錯誤の場合は、その事情が法律行為の基礎とさえていることが表示されていたときに限り、取り消すことができ(95条2項)、表示は明示的なものであるか黙示的なものであるかを問わない。
なお、錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、原則として、意思表示の取消しをすることができない(95条3項柱書)。なぜなら、錯誤に陥るについて重大な過失があった場合、表意者を保護する必要がないため。
ただし、①相手方が表意者に錯誤があることを知り、または重大な過失によって知らなかった時(93条3項1号)、②相手方が法医者と同一の錯誤に陥っていたとき(93条3項2号)は、意思表示の取消しをすることができる。
錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できない(94条4項)。
重要判例:大判大7.12.3
相手方が、表意者に重大な過失があったことについて、主張・立証しなければならない
- 表示の錯誤
- ④詐欺による意思表示
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詐欺とは、欺罔行為により他人を錯誤に陥れ、それによって意思表示させること。
事例Aは、Cの詐欺により、自己所有の土地をBに売ったが、Bは詐欺の事実を知らず、また、知ることもできなかった。
相手方(B)に対する意思表示について第三者(C)が詐欺を行った場合において、相手方がその事実知り、または知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる(96条2項)。
したがって、相手方Bが詐欺の事実を知らず、また知ることもできなかった上の事例では、Aは、意思表示を取り消すことができない。
事例AがBの詐欺により自己所有の土地をBに売却し、Bが詐欺の事実を過失なく知らないCにこの土地を転売した後、AがBとの土地の売買契約を取消して、Cに対して土地の返還を請求した。
詐欺による意思表示の取消は、善意でかつ過失がない第三者(C)に対抗することができない(96条3項)。
したがって、上の事例では、Aは、土地の返還を請求することができない。
なお、96条3項の趣旨は、取消しに遡及効があること(121条)で第三者が害されるのを防止する点にあることから、ここにいう「第三者」とは、遡及効で害される第三者、すなわち取消前の第三者に限られる(大判昭17.9.30)。
重要判例:最判昭49.9.26
96条3項の「第三者」は、対抗要件を備えた者に限定されない。
- ⑤強迫による意思表示
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強迫とは、他人に畏怖を与え、その畏怖によって意思表示をさせること。
強迫の場合は詐欺の場合よりも意思形成への干渉が強いことから、以下のように、強迫による表意者は詐欺の場合より強く保護されている。
あわせて読みたい
- 真の権利者が自分以外の者が権利者であるかのような外観を作り出したときは、それを信頼した第三者は保護されるべきであり、自らその外観を作った権利者は権利を失ってもやむを得ないとする理論。 ↩︎