民法8:「占有権」とは?取得方法から効力まで徹底解説

目次

占有権とは?

物に対する事実上の支配は、一般的には所有権地上権といった本件に基づくことが多いです。しかし、物に対する観念的な権利関係と事実上の支配状態は別個に成立することがあるため、必ずしも事実上の支配が本件に基づくとは限りません。

そこで、民法は、現実に物を支配しているという事実状態を尊重し、これを基礎とする社会秩序や取引の安全を保護しています。このように、物の事実上の支配に基づく権利を占有権といいます。

占有権の取得

占有の種類

①自己占有

占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得します(180条)。

②代理占有

占有権は、代理人を通じて取得することができます(181条)。
例えば賃借人が建物を占有している場合、賃借人を通じて間接的に建物を占有している賃貸人にも占有権が認められます。
このような占有を代理占有といいます。
(※なお、代理権が消滅しただけでは、占有権も消滅するわけではありません(204条2項)。)

占有の性質の変更

占有者が物を占有する際に、法的な権原1の性質上「所有の意思がない」とされる場合、その占有の性質が変わるのは、以下のいずれかの条件を満たすときです(185条)。

①自己に占有させた物に対して所有の意思があることを表示したとき
新たな権原に基づいて、所有の意思をもって占有を始めたとき

これは、所有の意思に基づかない占有(他主占有)を、所有の意思をもってする占有(自主占有)へと変更できることを認めたものであり、他主占有者にも取得時効が成立する可能性を残した規定です。

占有の承継

占有者の承継人は、次のいずれかを選択できます(187条1項)。2

  • 自己の占有のみを主張する
  • 自己の占有に加えて、前の占有者の占有も併せて主張する

ただし、前の占有者の占有を引き継ぐ場合、その瑕疵(悪意など)も承継されます(187条2項)。

占有権の効力

権利の推定

占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定されます(188条)。

そのため、占有者が所有権を主張し、占有している事実を証明すれば、その者は所有者であると推定されます。これに対して異議を申し立てる者は、占有者に所有権がないことを証明しなければなりません。

善意占有と悪意占有

  • 善意占有:本来の権利(本権)がないにもかかわらず、それがあると誤信して占有している状態を指します。

  • 悪意占有:本権がないことを知っている、または本権の有無について疑いを持ちながら占有している状態を指します。

善意占有と悪意占有では、次の表のとおり、占有権の効力に違いが生じることがあります。

善意占有悪意占有
果実収取権あり
189条1項
×なし
190条1項
損害賠償義務現存利益のみ(191条
※他主占有者は損害の全部
損害の全部
191条

占有者の費用償還請求権

①必要費

占有者が占有物を返還する際、その保存のために支出した金額やその他の必要費を、回復者に償還させることができます(196条1項本文3

ただし、占有者が果実(収益など)を取得した場合には、通常の必要費は占有者の負担となります(196条1項但書)。

「通常の必要費」には、家屋の修繕費のうち、大規模な修繕費は含まれず、応急的な小修繕費のみが含まれます。

②有益費

占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、支出した金額または増加額のいずれかを償還させることができます(196条2項本文4

ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所が回復者の請求により、償還について相当の期限を設けることができます(196条2項但書)。この期限が認められると、占有者は留置権を主張することができなくなります(295条1項但書)。

占有の訴え

占有の訴えとは?

占有者は、占有の訴えを提起することができます(197条前段)。

この訴えの目的は、自力救済(法律によらず自己の力で権利を実現すること)を防ぐため、法的な手続を確保することになります。

種類

占有の訴えには次の3種類があります。

  • 占有保持の訴え
  • 占有保全の訴え
  • 占有回収の訴え

これらの訴えの内容は、占有状態の維持・回復と損害賠償の請求に関するものです。
また、占有の訴えは物権的請求権と類似しています。

・占有保持の訴え≒妨害排除請求権
・占有保全の訴え≒妨害予防請求権
・占有回収の訴え≒返還請求権

要件請求内容提訴期間
占有保持の訴え
198条
占有者がその占有を妨害されたこと妨害の停止および
損害の賠償
原則:妨害の存する間または妨害が消滅した後1年以内
例外:工事による占有物の損害は、工事着手の時から1年以内または工事完成まで
占有保全の訴え
199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあること妨害の予防または
損害賠償の担保
原則:妨害の危険が存する間
例外:工事による占有物の損害のおそれがあるときは、工事着手の時から1年以内または工事完成前まで
占有回収の訴え5200条1項占有者がその占有を奪われたこと67物の返還および
損害の賠償
占有が奪われた時から1年以内
  1. ある法律行為または事実行為をすることを正当とする法律上の原因のこと ↩︎
  2. 重要判例:占有者の承継人が自己の占有に前の占有者を併せて主張した場合、10年の取得時効の要件である善意無過失は、前の占有者の占有開始時を基準に判断される(最判昭53.3.6) ↩︎
  3. 具体例:例えば、租税公課や建物の修繕費など ↩︎
  4. 具体例:通路の舗装や店舗の内装替えなどに要する費用を支出した場合など ↩︎
  5. 参考:占有回収の訴えは、占有を侵奪した者も特定承継人が侵奪の事実を知っていたときを除き、特定承継人に対して提起することはできない(200条2項↩︎
  6. 重要判例:占有回収の訴えは、占有者の善意・悪意を問わず認められている(大判大13.5.22) ↩︎
  7. 重要判例:「占有を奪われた」とは、占有者の意思に反して所持が奪われることをいい、許取された場合は含まない(大判大11.11.27) ↩︎
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